ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

貴志祐介「罪人の選択」(文藝春秋)

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貴志さんの最新作。ノンシリーズの中短編集。四編が収録されていて、SFが三作、

ミステリが一作。

正直、最初の『夜の記憶』を読み始めて、苦手なSFの上、何が書きたいのかよく

わからないお話だったので、危うく挫折しかけました。好きな人は好きな世界観

だとは思うのですが。タイトルからミステリーだと思い込んでいたから、SFしばりの

短編集かもしれないと思ったら、読むテンションが下がってしまって。予約の本も

たくさん回って来ていて、苦手なSFを読み通す自信がなかったというのもあるし。

でも、アマゾンの読んだ人の評価見てたら、高評価の方が多かったので、とにかく

もうちょっと頑張ってみようと読み進めて行ったら、その後の三作はすんなり

楽しめました。

『夜の~』は、記事を書くにあたってネット検索していたら、著者がデビューする

前に書かれた短編だそうで。どうりで文章やら状況表現がなんとなく読みづらかった

わけだ、と思いました。

一番読みやすかったのは、やっぱり唯一のミステリである表題作(『罪人の選択』

でしたね。罪を犯した人間が、生きるか死ぬかの究極の二択に挑戦するお話。

二つの時代で違う人物が同じ選択を迫られることになるのだけど、どちらの場合も、

罪人がどちらの選択を選ぶのかハラハラさせられました。

残りの二つのSF『呪文』『赤い雨』は、異世界と真っ赤に様変わりした地球を舞台

にした貴志さんらしいSF小説

傑作『新世界より』にも通じるものがある世界観で、なかなか面白かった。好み

なのは『呪文』の方かな。地球から遠く離れた植民惑星が舞台で、そこに住む

村人たちは、神を崇めるのではなく貶める宗教を信じていた。長年虐げられて来た

村民たちは、その憎悪をマガツ神に向けていた・・・という。民俗テイストも

入っていて、独特の禍々しい雰囲気が好きでしたね。彼らを調査する為に派遣された

主人公の金城と、彼を慕う村民の少女との関係が良かったです。ラストはやりきれない

気持ちになりましたが。村民が大事に育てた作物を全て食い尽くしてしまうマガツ虫

が気持ち悪かったなぁ。この気持ち悪さが貴志さんらしかったけども。まぁ、現実

でも、稲を短時間で食付してしまうジャンボタニシみたいな厄介な害虫もいますしね。

あれを数百倍強くしたのがマガツ虫。キモっ。

『赤い雨』の方は、チミドロと呼ばれるお化け藻類によって地球中が赤く染められ、

生物のほとんどが絶滅してしまった中で、チミドロによって引き起こされるRAINと

いう伝染病の治療法を研究しようとする女性が主人公。チミドロって名前もすごい

けど、今のコロナ禍を予兆するかのようなパンデミック小説で、感染症患者の扱いの

描写とか、今に通じるものがあるなぁと思いながら読みました。ウイルスに侵された

患者の末路は壮絶。治療法が確立されていない伝染病っていうのは、どんなもの

でも恐ろしい。瑞樹と光一が再び会える日は来るのかな。地球が再び青い姿を

見せるのは、何万光年も先の遠い未来になるのだろうけれど。

 

貴志ワールド全開でした。SFよりの貴志作品がお好きな方にはお薦めかな。

ミステリ好きなら表題作がツボに来るだろうし。バラエティに富んだ一作でした。