ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

三津田信三「みみそぎ」(角川書店)

三津田さん最新作。作家三津田信三シリーズと言っていいのかな?ノンフィクション

のような体裁で書いているけれど、どう考えてもフィクションっていう(苦笑)。

親交の深い編集者・三間坂秋蔵から送られて来たノートを巡る物語。そのノートは、

<猟奇者>と呼ばれ、怪奇・怪談を好んだ三間坂の祖父・萬蔵氏が記したものだった。

自宅の蔵の開かずの金庫から発見されたそのノートに書かれていたのは、延々と

ループする奇妙な怪異譚――読む者に障りを与えるその戦慄の内容とは。

内容のほとんどが、三間坂の祖父によって書かれた様々な怪異譚の再録という形

になっています。怪異譚ごとにフォントも変わっていて、なかなか凝った作りに

なってます。ただ、字体によってはかなり読みにくかったりもしましたが・・・。

作中作の中に更に作中作が入り込んでいたりして、メタメタ状態で、もう何が何

だかって感じでした。再三出て来る、聞いたことを心の底から後悔するしかない、

なんとも悍ましい「みみ〓〓」の怪談に関しては、事前のハードルが思いっきり

上がっていた為に、どれがその心底恐ろしい話だったのか最後までよくわからず。

それぞれの怪談話はちょっと怖い体験談くらいの感じなので、さほど怖いとも

思わなかったし。まぁ、それが次々と重なってループ状態で延々と続くわけで、

それを読む側の人物にもだんだんとそのノートの怪異が伝染していき、現実に

障りを齎して行くくだりは、夜中に一人で読んでたらさすがにゾクッとしました

けどね。いつもは、作家三津田が他人から持ち込まれた怪異譚に独自の解釈を

つけて論理的に説明をつけて終わるのだけれど、今回は三津田自身が解釈は不可能

と投げてしまった為、特にオチもなく終了。巷の怪談ってそういうものなので、

それはそれでいいのかもしれませんが、三津田ファンとしてはちょっと食い足りなさ

を覚えましたね。やっぱり、怪奇的な現象にミステリ的な解釈を与えて、うまく

ホラーとミステリを融合させる手腕が三津田さんの真骨頂だと思っているので。

中途半端な怪談話を延々と読まされたって感じ。怪談好きには良いかもしれませんが、

ミステリよりの三津田作品が好きな人間としては、やっぱり如きシリーズの方が

読み応えがあって好きだなぁと思う。

本書で一番怖いのって、遠田志帆さんの表紙かもしれない・・・。

ところで、タイトルの『みみそぎ』は一体どこから出て来た言葉なのだろうか?

作中作に出て来る『みみ〓〓』という言葉について、作中で三津田と三間坂

考察するくだりは出て来るのだけど、その中に一度も『みみそぎ』という言葉は

出て来なかったように思うんだけど・・・???二人が出した言葉よりも確かに

『そぎ』という言葉がついた方が怖い。しかし、耳を削がれるような怪談は

中に出て来てなかったと思うし、タイトルにするには突然感が半端ない。単に

私の読み落としなのかなぁ・・・(ありえる^^;)。

『〓〓』という記号が印刷業界用語で『下駄』という意味だというのを初めて

知りました。手書きの原稿が読めない、または作字が必要な部分には、仮の

処置としてこの『〓〓』を当てはめておき、この記号が下駄に見えることから、

『下駄を履かせる』と表現するのだそう。まぁ、今の時代に手書きの原稿

って場合はほとんどないでしょうけどね。昔から使われて今に至るみたいです。

確かに、下駄ってパソコンに打ち込むと、候補に『〓』が出て来る。面白い!

前作が『のぞきめ』で視覚、今回が『みみそぎ』で聴覚ということで、五感

シリーズになるらしい。ただ、作者も述べていたけど、怪談で触覚とか味覚とか

表現するのは難しいそうなので、今後他の五感で作品が出るのかは謎。嗅覚

も難しそうですよね。厭な臭いの怪談とか、想像するのもちょっと嫌かも^^;

(以前、京極さんが糞尿が出て来る怪談をアンソロジーで書かれていたような覚え

が・・・^^;;)

読めば読者にも障りが出るかもしれない云々の煽り文句は今回も健在。とりあえず、

今のところは異常はないですが(笑)。読むか止めるかはあなた次第ということで。