ミステリ読書録

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町田その子「コンビニ兄弟 ーテンダネス門司港こがね村店ー」(新潮文庫nex)

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最近ちょっと注目している町田さんの文庫新刊。九州地方だけに展開しているコンビニ

チェーン『テンダネス』。その中でもとりわけ売上のいい『門司港こがね村店』を

舞台に繰り広げられるハートフルストーリー。門司港こがね村店の売上がいい理由は、

そこで勤める名物店長にある。イケメンで誰にでも優しく、とにかく老若男女誰をも

魅了してしまうフェロモンを常に発している男・志波三彦その人である。パートで

勤める店員の中尾光莉は、志波店長と客たちとのやり取りを観察するのが日課

なっている。なぜなら、光莉はSNS上で『フェロ店長の不埒日記』という漫画を

日々更新して、人気を博しているからだ。もちろん、フェロ店長とは志波店長を

モデルにしているのだ。

そんな彼のもとには、個性的な常連や、悩みを抱えた客たちが癒やしを求めて

やってくる――。コンビニを舞台に繰り広げられる心温まるお仕事小説。

本書に出て来るテンダネス門司港こがね村店は、三階以上が高齢者専用のマンション

となっていて、品揃えも高齢者向けのものが多かったり、イートインスペースも

マンションの住民の憩いの場となるように設置されていたりと、ちょっと他の

全国展開のコンビニとは雰囲気が違っています。店長目当ての常連客にも高齢の

女性が多い。マンションの常連客で結成された店長のファンクラブまである始末。

店長はどんな客にも優しい対応をするので、自然と店長のレジにはいつも長蛇の

列が。店長の客への対応を見ていると、この場所がコンビニであることを忘れ、

ホストクラブにいるかのように思えてくる、という。なんか、胡散臭い店長だなぁと

最初は思っていたのだけれど、途中からこれは演技でも何でもなく、店長の本質

なのだというのがわかってきて、少し見方が変わりました。パートの光莉も思う

ことだけど、店長だったらこんな地方のコンビニよりも他にいくらでも仕事があり

そうに思えるんですが、店長自身がコンビニの仕事がとにかく大好きで、やりがいを

感じているらしいのが伺えて、好感が持てるようになりました。変わった人だよね。

でも、個人的には店長よりも、飄々とした廃品回収業者のツギのキャラの方が

ずっと好き。ツギと店長の関係は、タイトルからすぐにわかっちゃいますね。ツギ

の方が下だと思ってたから、そこは予想が外れたけど。

悩みや鬱屈を抱えた客たちが、このコンビニにやって来て、店長や従業員たちや

常連のツギの力を借りて、心を癒やして行くところに心が温まりました。

各主人公たちも、最初は偏屈だったり卑屈だったりで、あまり好感持てない人物が

多いのだけど、店長たちと触れ合うことで、それぞれに気づきがあったり成長が

伺えて、終盤ではみんな良い方に印象が変わりました。

二話目の主人公の良郎が、塾講師を辞めて郷里に帰った後も、テンダネスで知り

合ったツギや光莉や店長と関係が続いているのが嬉しかったです。光莉のように

ウェブ上でもいいから、漫画を描き続けて誰かに認めてもらえるといいなぁと

思います。今はそういうところから出版化の話が来て、ヒットする時代ですしね。

ラストに出て来た店長とツギの妹の存在は、今後も何か引っ掻き回してくれそうな

感じがしましたね。続編があるなら、の話ですが。しかし、兄たちはそこそこ普通

の名前なのに、なぜ妹だけいきなりDQNネームなのか・・・(樹恵琉(じゅえる))。

門司港のレトロな雰囲気も良さそうでしたね。そういえば、山口旅行に行った時、

すぐ側を通りかかったんですよねぇ。ほんとはすごく寄って行きたかったけど、

時間がなくて泣く泣く諦めたのだった。いつかまたあちら方面に行く時があったら、

絶対観光して行きたいなぁ。