ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

「大崎梢リクエスト!本屋さんのアンソロジー」/光文社刊

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大崎梢さんの「大崎梢リクエスト!本屋さんのアンソロジー」。

読書家としても知られる大崎梢が、今いちばん読みたいテーマを、いちばん読みたい作家たちに
「お願い」して作った、夢のようなアンソロジー。十人の人気作家による書店モチーフの新作
短編集(紹介文抜粋)。


少し前に読んだ近藤史恵さん編集の『ペットのアンソロジーに続き、こちらは大崎梢さん編集に
よる、『本屋さんのアンソロジー。作家さん自らが、このテーマで書いて欲しいと思う作家さんに
原稿を依頼して集まった短篇をまとめたもの。
本屋さんがテーマなんて、聞いただけでもワクワクしちゃいますね。しかも、大崎さんの拘り
により、『新刊書店』という括りつき。元書店員さんならではのリクエストですよね。
作家さんで本屋さんが嫌いな人なんて絶対いない筈ですから、寄稿された作家さんもみなさん
楽しんで書かれたのでしょうね。どの本屋さんもそれぞれに個性があって、楽しいお話ばかり
でした。本好きにとって、本屋さんというのはやっぱりいつでもワクワクさせてくれる場所
ですよね。


では、各作品の感想を。
若干ネタバレ気味の感想もあります。未読の方はご注意下さい。

有栖川有栖『本と謎の日々』
学生アリスや火村シリーズ以外の有栖川作品を久しぶりに読んだ気がします。それだけでなんだか
とても新鮮でした(笑)。書店で起きる日常の謎を店長の浅井が鮮やかに解決するというもの。
浅井のキャラがなかなか良かったですね。なんでこう、書店の店長って飄々としたキャラの人が
多いんでしょうかね(苦笑)。本を二冊買ってしまった客の謎に関しては、なるほど、と思い
つつも、身勝手な言動にムカっとしました。恥じるべきは自分の行為で、書店員さんに対して
『気をつけてください』はおかしいでしょう。

坂木司国会図書館のボルト』
タイトルから内容が全く想像が出来なかったのですが、内容も予想外の作品でした。グラビア
写真集見放題の本屋で、常連客が結託して万引き犯をやっつけるお話・・・で、なんでこの
タイトル?というのは、読んでのお楽しみ(笑)。万引き犯の開き直りには呆れましたね。
終盤にわかる常連客たちの正体にビックリ。最後は爽快に読み終えられました。

門井慶喜『夫のお弁当箱に石をつめた奥さんの話』
これも、タイトルから内容が想像しづらい作品でしたね。といっても、坂木さんと違ってタイトル
通りの話ではあるんですが。いくら怒っているとはいえ、お弁当箱に石をつめるってすごい発想
ですよね^^;石も綺麗に洗ってあるものを入れてるんでしょうけど^^;奥さんが指し示す
一冊の本を探すというところ、『おさがしの本は』を思い出しました。門井さんらしい
作品と云えるかもしれません。

乾ルカ『モブ君』
主人公美奈がアルバイトとして勤める書店に毎日のように来ては立ち読みだけして帰る『モブ君』
彼にイラつく美奈ですが、最後の最後で彼に好感を覚えるくだりがいいですね。自分が好きな本で
同じように共感してもらえるのって嬉しいですもんね。それが誰にも見向きもされないような本
なら尚更。美奈の嬉しくなる気持ちわかるなぁ~と思いました。

吉野万理子『ロバのサイン会』
読んでて、電波少年ロシナンテを思い出したのは私だけじゃないはず・・・!!(え、年が
バレるって?^^;)
ロバ視点というのが面白かったですね。最後上手く行きすぎな展開ではあるんですが、ウサウマ
君にとって一番ハッピーな終わり方で嬉しくなりました。初めましての作家さんでしたが、
なかなか楽しい一作でした。

誉田哲也『彼女のいたカフェ』
最近流行りのブックカフェが舞台。主人公冬美が働く池袋のブックカフェにちょくちょくやって来る
美しい『彼女』。彼女の姿を眺めることが、冬美の癒し。その彼女もいつしか姿を見せなくなり、
冬美は転勤。数年後、再び池袋店に異動になった冬美は、意外な状況で彼女と再会する・・・。
彼女の正体には驚かされました。シリーズは読んでないのですが、もちろん彼女のことは知って
いますから。ファンには嬉しい一篇でしょうね。

大崎梢『ショップ to ショップ』
偶然聞いた会話から謎を推理し合う話。『鞄に入れる練習』『鞄に入れない練習』の謎とは?
よくこういう陰険なことを考えつきますよねぇ。ほんと、タチが悪い。狙われた方もたまったものじゃ
ないですよ。でも、気になったのは、本に挟まってたレシートはどうやって手に入れたのかという
ところ。他のマンガを買った時にもらったレシートとか?でも、日にちとか値段とかでバレそうな
気も・・・。その辺のツメの甘さが高校生ならではなんですかねぇ。

似鳥鶏『7冊で海を超えられる』
似鳥さんならではの語り口に何度もくすりとさせられました。人を食ったような脚注にも大受け。
店長と主人公の関係、どこぞで見たようなデジャヴを感じたのは私だけでしょうか・・・。
似鳥さんって、よくよく年上のお姉さまに振り回される男性ってシチュエーションが好きなんだろう
なぁ、と思いました(笑)。
謎の方も、整理屋さんの性格がしっかり伏線になっていて、オーソドックスながらも、良く考え
られていますね。でも、それよりも驚かされたのは、整理屋さんの彼女の正体でしたが。これは
キャラとしてもミステリとしてもとても楽しめた一作でした。

宮下奈都『なつかしいひと』
主人公が書店で出会った『なつかしいひと』の正体は、割りと早い段階で見当がついてしまい
ました。ま、これはほとんどの人がそうでしょう。それでも、母親の死を乗り越えて、主人公
が少しづつ前へ進んで行こうとするところにじーんとしました。

飛鳥井千砂『空の上、空の下』
こちらも初めまして、の作家さん。空港の書店が舞台。空港とか駅の本屋さんって、確かに
乗ってる時間の暇つぶしに本を買う人が多そう。でも、行きに本を買って、帰りに同じ駅で
本を捨てて行く人がいるなんて書店員じゃなくたって嘆かわしい、と思ってしまいます。
身軽になって帰りたい、という気持ちはわからなくはないのですがね・・・。始めは空港の
本屋で働くことに消極的だった主人公が、最後には仕事に前向きになれるところが爽やかでした。
最後にはちょっぴりロマンスもありましたしね。この後二人の関係がどうなるのか気になる
ところです。



本好きさんにはたまらないアンソロジーですね。このテーマで、もっともっといろんな作家
さんの作品が読んでみたいなぁ。
本屋さんって、私にとっては最もワクワクする大好きな場所の一つですから。いろんな書店に
出会えて、大満足の一冊でした。