ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

長岡弘樹「幕間のモノローグ」(PHP研究所)

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長岡さん最新刊。ベテラン俳優南雲草介を軸に、南雲が講師を勤める俳優養成所

の生徒たちが直面する事件やトラブルを描いた連作ミステリー。一作ごとに

主役が切り替わり、映画やドラマの撮影に纏わる様々な出来事が綴られて行きます。

南雲自身の身に降り掛かった奇禍と、その後の彼自身に纏わる謎も併せて描かれます。

謎の多い南雲の言動の謎が最後に明かされて、すっきりしました。全体的な構成は

『教場』と似てますね。南雲の、教え子に対する厳しい言動とその裏に潜む温かい

目線は、風間と共通するものがあるように思いました(あそこまで冷酷じゃない

けど)。

ただ、同じアクターズスクールの生徒が、あそこまでこぞって不祥事を起こすって

いうのはちょっとやりすぎのような気もしましたが・・・。

南雲の演技指導はちょっと回りくどすぎないか?とも思いましたし。巷の俳優

志望の人たちは、みんなあんなに演技に対して大変な思いで役に入り込んで

いるのでしょうか。何気なく観ているドラマや映画の俳優さんたちはやっぱり

すごい努力をしているんでしょうねぇ・・・。ま、そういう人ばかりではないと

思いますけども。

全く予想もつかない着地点に行き着くお話が多いのはいつも通り。上手いとは

思うのだけど、そこまでの経緯が遠回り過ぎて、ちょっと説得力に欠けている

ように感じるお話もありました。もうちょっと、読者にわかりやすくしてくれても

いい気もするんだけどなぁ。登場人物同士の会話が、たまに禅問答かと思うくらい

よくわからない時があったりするんだよね。もちろん、その会話にも最後には

ちゃんと意味があったとわかりはするんだけども。

俳優って、みんな役作りの為にあんなに大変な思いをしているんですかね。牛乳に

酢を混ぜたものを飲まされるのはちょっと勘弁して欲しいなぁ。

南雲のキャラは渋くてなかなか素敵だなと思ったのですけれど、彼の名探偵ばりの

名推理の理由がわかった時には驚かされました。きちんと伏線は張ってあったの

ですよね。重いメガネにああいう理由があったとは。その真実を知って、俄然

その背景にいる、ある一人の人物に興味が湧きました。その人物視点の物語ももう少し

きちんと読んでみたかったな。ごく僅かに心理描写が出て来るパートはあるの

ですけれど。南雲との関係とかももうちょっと知りたかったしね。

作品構成がなかなかに凝っています。プロローグとエピローグをそれぞれ一つ

づつずらして挿入することで、南雲自身の秘密が作品の中で効果的に浮き上がって

来る。素直に、上手いな、と思わされました。