ミステリ読書録

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スティーヴン・キング/「悪霊の島 上下」/文藝春秋刊

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スティーヴン・キング「悪霊の島 上下」。

建設業界で名を馳せていたエドガー・フリーマントル。自分で興した会社が成功し、巨額の富を
得た。しかし、すべてが上手く行っていた矢先に、工事現場で不慮の事故に遭い、瀕死の怪我を
負った上、片腕を失った。なんとか一命を取りとめたが、リハビリからようやく復活した頃には
すべての状況が変わっていた。結局妻とは離婚し、仕事を引退したエドガーは、娘たちとも離れて
一人フロリダの小さな島『デュマ・キー』に移り住む。島で静かに生活するエドガーは、臨床心理士
ケイメンの勧めで、子供時代に好きだった絵を再び描き始める。すると、絵の才能を開架させた
エドガーは、とてつもない創作意欲に従って、次から次へと絵を完成させて行くようになる。しかし、
この絵が引き金となり、島は徐々に恐怖に支配されて行く――戦慄の島で起きる悪夢の出来事とは。



今週一週間を費やして読んでいた本はこれでした。久しぶりに読んだ翻訳作品。上下巻併せて
1000ページ以上、非常に読み応えのある作品でした。なぜいきなりキング?と思われる方も
多いと思いますが、最初は友人と行った本屋の新刊コーナーに置いてあったのを見かけて、
タイトルを見て正史の『悪霊島』に似ていたのでなんとなく印象に残ったのです。そしたら、
その数日後、図書館の新刊本コーナーにこの本が上下巻揃って置いてあって、手元にはすでに
借りようと思って手元に持っていた本が二冊あったのですが、それを置いてこちらの上下巻に
手を伸ばしていた自分がいました。なんとなく、本が「読め!」って誘っているような気が
したんですよ。とか書くと嘘っぽいですけど^^;このブログ始めてから、海外物の記事って
数えるくらいしか書いてないので、ちょっと意外に思われた方も多いかもしれませんが、
読もうと思った経緯はそんな感じでした。

前置き長くてすみません^^;で、キングを読む情報をお伝えしたところ、ゆきあやさんと
beckさんから熱烈な歓迎(?笑)の反応を頂きまして、おふたりの励ましに応えるべく読み進める
こととなりました。こりゃー、挫折できん、というちょっとした(いや、多大な?笑)プレッシャー
も感じましたが(笑)。


って訳でようやく本題。簡単にあらすじを紹介しておくと、事故で片腕を失い、仕事も妻も
失った失意の男エドガーが、フロリダの孤島にある貸し別荘に静養しに行って、絵を描き始めた所
才能が爆発的に開架。個展を開いて大成功を収める程になるも、その絵を手にした人々が奇禍に
遭って命を落とし始め・・・と、そんな感じ。上巻は非常に面白くて、かなりのめり込めて
さくさくとページが進んで行ったのですが、肝心の下巻に入って、エドガーが島にいる悪霊と
対峙するクライマックス辺りからだんだん面白さより読みにくさを感じるようになってしまって
失速。結局その流れが続いていまひとつ入り込めないまま終わってしまいました。下巻の方が
上巻よりもページ数が少なかったにも関わらず、下巻の方がより時間がかかったような気がします。
特にエリザベスの過去の章では人物関係に混乱してしまって、同じページを何度も読み直したり。
やっぱりカタカナ名ってどうしても苦手。特に、エリザベスの呼び名がいきなりリビットになったり
するので、気を抜いて読んでいるとこれって誰だったっけ?状態に。集中して読めばそんなことは
ないのでしょうが、翻訳の文章の読みにくさと相まって、どうも言葉が上手く頭の中で消化されず
集中力が持続しないところがありました。そのせいもあってなのか、終盤のホラー要素に今ひとつ
緊迫感と怖さが足りないように感じてしまいました。その前の段階の、エドガーの絵を手にした
人々が次々に奇禍に遭うくだり辺りまでは非常にスピード感があって面白かったのですが・・・。
諸悪の根源である悪霊の正体が結局、拍子抜けする程矮小でチープな印象だったせいかも。
エドガーとの対決もちょっとあっさり流しすぎていて、盛り上がりに欠ける感じがしました。
なんたって、○○○○に封じ込められちゃうんだからねぇ・・・(^^;)。エドガーとワイアマン
とジャック、三人でエリザベスの家に行くくだりなんかは映像化した方が面白さがあるかも
しません。文章だと(特に翻訳の文章だと)、いまひとつその恐怖感とかドキドキ感が伝わって
来ない気がするので・・・(私だけか?^^;)。

ただ、上巻はほんとに面白かったんです。特に、エドガーとワイアマンの友情の部分は読んで
いてとても胸が熱くなりましたし、エドガーと娘イルサとの愛情のこもった親子の会話にも
胸が温かい気持になりました。どちらかというと、ホラー要素よりは、そうした、エドガーを
取り巻く人間関係の部分の方が私にはずっと面白かった。特に、エドガーとワイアマンの
出会いのシーンが大好き。パラソルに翻弄されるワイアマンが可笑しくて可笑しくて。こちら
まで愉快で爽快な気持になりました。ワイアマンとの友情関係がとても好きだったので、ラスト
にはかなりショックを受けました。正直、そこまで書いて欲しくなかったです。でも、その
事実を明らかにすることで、悪夢の影響がまだ続いていたのだというホラーとしての余韻は
残ったかもしれないのですが。でも、やっぱり知りたくなかったです・・・。エドガーの能力で
ワイアマンの○○を癒すところは、映画で観た『グリーンマイル』のあるシーンを思い出しました
(原作の方は未読ですが)。治る見込みのない病気を奇跡の力で癒すというのもキングが好む
主題の一つなんでしょうか(たまたま似ただけかな?^^;。

上巻を読んだ時点で、イルサの身に起きる悲劇も予想はついたのですが、それもやはり
ショックが大きかったです。素晴らしい芸術作品が生み出した悲劇。どんなに素晴らしい絵
が描けたとしても、それが誰かを不幸にするならば、そんな能力はない方がずっと幸せですね。
悪霊との対決後、一人になったエドガーが最後に向き合うことになる、ある人物との対決に胸が
痛みました。キングはどこまでも主人公に対して厳しい現実を突きつける。家族というものの
持つ愛情の温かさと、ひとたびそれが壊れた時に見せる脆さ、残酷さを見事に描いている作品だと
思いました。結末は苦く、エドガーの未来には不安を感じざるを得ません。残りの人生、彼は
どうやってそれまでの悲劇と折り合いをつけて生きて行くのか。当然、二度と絵筆は持たない
でしょうけれど、絵を描いた時の情熱と幸福感を忘れることはないのでしょうね。



それにしても、海外作品を読むのはやっぱり国内作品の三倍くらいのエネルギーが要る気がする。
読み終えて、ぐったりしてしまった(昨日は、記事を書く余力が残ってませんでした^^;)。
気力がある時に、また違う作品にチャレンジしてみたいと思います。
なんだか上手く感想がまとまっていなくてすみません、ゆきあやさん、beckさん^^;


ちなみに、主人公のエドガー、私の中ではなぜかトム・ハンクスになってました。やっぱり、
『グリーン・マイル』の影響かなぁ。映像化されるなら、是非彼でやって欲しいな~。
ワイアマンは南米かスペイン辺りの濃い~~顔の俳優(イメージ)。