ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

太田忠司「和菓子迷宮をぐるぐると」(ポプラ社)

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久しぶりの太田さん最新刊。面白いタイトルに興味を引かれたので借りてみました。

理由あってあんこが苦手だった超理系男子の大学生が、ある日突然和菓子の美味しさ

を知って衝撃を受け、和菓子職人を目指すお話。

いやー、これ好きだー。和菓子をテーマにしたお話は、坂木司さんの和菓子のアン

シリーズも大好きなんだけれど、それと同じくらい気に入っちゃいました。

なんと言っても、主人公の理系男子・涼太のキャラが抜群に良い。一度気になる

ことができると、それをとことん調べた挙げ句、科学的に検証しようとまで

しちゃうような根っからの理系人間なのだけど、ある日、その興味が和菓子に

向かう出来事と出会う。大学四年生の涼太は当初、大学院に進むつもりだったが、

その日を境に方向転換。大学院進学をあっさり諦めて、和菓子職人になるべく

製菓の専門学校に通うことに。

専門学校の授業は涼太に取って初めてのことだらけで、毎日刺激の連続。同じ

班の生徒は女子ばかりだったけれど、それぞれに個性的な人ばかりで、それも

涼太にとっては新鮮なのだった――というのが大筋。

ほんの些細な疑問の答えにも、科学的根拠をもとに考察して解説する涼太の性格

には面倒くさいと辟易する部分もありましたけど(しかも説明が専門的過ぎて

さっぱりわからない)、誰に忖度することもなく、まっすぐで素直で誰に対しても

丁寧な態度を貫くところはとても好ましかったです。和菓子を学ぶ姿勢も真面目で

真剣だけど、ちょっと変わった捉え方をしたりするところが面白かった。涼太の

言動は驚きの連続でしたねぇ。でも、ちゃんと一本芯が通ってるところがいい。

ちょっと今までにはないタイプの主人公だと思いました。

和菓子に限らず、料理は科学(化学?)変化の塊みたいなものだから、もともと

理系人間の涼太向きなのかもしれませんね。作業中に素材が変化する度に、

いちいち専門用語使って説明したりするのはちょっと面倒くさかったですけど(笑)。

母親に捨てられた涼太を引き取って育ててくれた伯父夫婦のキャラもすごく良かった

ですね。この二人がいたからこそ、涼太はまっすぐな性格に育ったのだと思う。

涼太の意志を尊重し、やりたいようにやらせてくれる二人は、本当に素敵なひと

たちだと思いました。

専門学校の同じ班の仲間たちもみんなそれぞれに良いキャラで、涼太との関係も

良かったです。特に、自分に自信がなく、気弱な寿莉とのやり取りが良かったな。

自分に迷いがない涼太と何事にも迷ってしまう寿莉、対照的な二人ですが、お互いに

刺激し合って良い関係性が築かれて行ったように思います。最後の最後でああいう

展開になるとは予想出来ませんでしたが・・・。

涼太の和菓子の師匠華房とその弟子のティンちゃんもいい味出してました。華房の

繊細な和菓子は、実物が見てみたくなりましたねー。二人の仕事は、和菓子の

奥深さを感じさせてくれました。和菓子は本当に繊細で風流で奥深いもので、

涼太があんこを作るだけで迷宮に嵌ってしまうのもよくわかりました。涼太が

一人前になって、どんな和菓子を作るのか、すごく気になります。和菓子職人を

目指す理系男子の成長物語、とても爽やかで楽しく読める作品でした。

またぜひ続編書いていただきたいなぁ。