ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

大倉崇裕「冬華」(祥伝社)

f:id:belarbre820:20210606200136j:plain

大倉さんの山岳ミステリー最新作。以前に出て来た便利屋の倉持と、元自衛隊

特殊部隊の深江のコンビが活躍するシリーズ。ただ、今回は深江の出番は極端に

少ないです。というのも、前作の終わりで倉持に誘われて便利屋稼業を一緒に

やることになり、倉持と一緒に住むことになった深江が、突然倉持の元から姿を

くらまして失踪してしまうから。倉持は、何も告げずに突然いなくなった深江の

身を案じて、かすかな手がかりを追って足跡を辿り始める――というのが

大まかなあらすじ。ページの大部分が、深江の痕跡探しみたいな感じなので、

終盤までほぼ深江の出番はなし。代わりに、『死神刑事』に出て来た儀堂堅忍

倉持の相棒代わりとばかりに出張出演してます。儀堂のキャラは面白くて好きだった

ので、再登場してくれて嬉しいですけどね。相変わらず人を食ったような言動で、

振り回される倉持がちょっと気の毒だった。ほんと、何者なんだか。あと、

大倉さんの山岳ミステリシリーズにはお馴染みの、山岳警備隊の原田もちょこっと

出て来ます。こちらは変わらず淡々と仕事をこなす渋いキャラで。もうちょっと

がっつり倉持と絡んで欲しい気もしましたが。

深江みたいな危険な男に関わってしまったせいで受難続きの倉持がちょっと

可哀想でしたが、悲惨な目に遭っても絶対に深江を見捨てない姿に胸が熱くなり

ました。深江と生活を共にしたことで、なぜか一緒にトレーニングを受けさせられ、

腕っぷしもちょっと強くなってるし。深江も、自分と関わることで倉持が危険な目に

遭うかもしれないということがわかっていて、倉持に少しでもそれに対抗できる

力をつけて欲しかったんでしょうね。前作で、倉持に便利屋に誘われた深江が

一緒にやったらいいのになぁとは思ってましたけど、正直本当に誘いに乗るとは

思わなかったんですよね。なんだかんだいって、深江は一匹狼でいるタイプかな、と

思ったんで。だから、二人で一緒に寝食を共にして、便利屋やっていると知って、

嬉しかったです。残念ながら、本書の冒頭から深江が姿を消してしまっている為、

二人で便利屋やってる姿は描かれていないのですけれど。深江にとって、倉持と

一緒にいる時間って、今までにないくらい穏やかで安らげる時間だったんじゃ

ないのかな。

深江が姿をくらました理由は途中で明らかになるのですが、原因となる人物との

関係がいまいちわからないままだったのがちょっと残念。もしかしたら前の作品で

出て来ているのかもしれないけど、全然覚えてない^^;あれだけの危険を犯して

までその人物との約束を守りたかったということを考えると、それなりに深い関係

だったのかな、と思える訳なのですけれど。

雪山を登る山岳シーンは、相変わらず緊迫感満載で、山を知っている人の描写

だなぁという感じ。過酷過ぎて、ハラハラしっぱなしでした。

深江を追って山を登る、というだけの話といえばそれまでなんですが、ぐいぐい

読まされて、あっという間に終盤まで辿り着いてました。敵側に協力する人物として

超凄腕の猟師が出て来るのですが、敵にするには惜しいキャラでしたね。別に

深江と敵対している訳ではなく、たまたま敵側に雇われただけの人物なので、

純粋に銃の腕対決となるクライマックスは、どちらが勝ってもおかしくないと

思えましたし。最後はあっけなさすぎて拍子抜けしてしまいましたが・・・。

老猟師には、もっと違うラストを用意して欲しかったな・・・せめて、彼の孫の

身の上だけは、なんとかしてあげて欲しかった。あと、深江と会話するところも

見てみたかった。腕の立つ人物同士、通じ合えるものもあったんじゃないかという

気がして仕方がない。この結末は必然だったのだとは思うけど、やっぱりやりきれ

ない気持ちが強く残りました。物語としては、これでいいのだとは思うのだけれどね。

基本山岳ミステリにはあんまり興味ないけど、やっぱり大倉さんのこの手のジャンルは

外れがないな。

深江と倉持はまた便利屋生活に戻るのかな。今度は、そちらの日常も読んでみたい

なぁ。