ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

大倉崇裕「死神刑事」/長岡弘樹「救済 SAVE」

こんばんは。お正月休みも明けて、すっかり通常営業の日常が始まりました。
今回は年末年始のお休みが長かったので、仕事モードに戻るのが辛かった・・・。
寒いから朝起きるのもツライ。めだかも寒くて動きがのんびり。人間もめだかも
寒いのが苦手なのは一緒なのね(苦笑)。

 

今日も二冊です。

 

大倉崇裕「死神刑事」(幻冬舎
大倉さんの新シリーズ。警視庁の『ほう』から派遣されてくる、冤罪事件の再捜査をする
『死神』こと儀堂堅忍と、彼に指名された刑事一名がコンビを組んで、事件の真犯人や
真相を探る連作短編集。なかなか変わった設定で、儀堂が明らかにする冤罪事件の真相も
意外性があって読み応えがありました。鋭い推理で真犯人に迫る儀堂ですが、見た目は
小柄で小太りの貧相なおっさんってところが、ギャップがあって面白いです。ひとたび
儀堂に指名された刑事は、警察の汚点をほじくり返す手伝いをすることになり、その時点で
警察に居場所がなくなり、キャリアが終了すると噂されています。ただ、実際は、儀堂の
機転によって、そうならないように配慮される結末になっていましたが。まぁ、そこは
ちょっとご都合主義的な感じも受けましたけど(毎回そんなに都合よく上司の不祥事が
見つかるとは思えないので)。でも、自分が指名した相棒のキャリアを潰さないよう
気を使うあたり、一見飄々としているように見えて、実は人情味のある儀堂の性格が
すけて見えて、微笑ましかったです。
一見冴えない風貌なのに、その中身は聡明で、事件に対して鋭い推理を開帳するところは、
副家警部補に似ていますね。タイプは全然違うと思いますが、二人が会話するところを
見てみたいかも。
お話としては、三話目の『死神の顔』が好きだったかな。事件の真相には辟易した
けれど。痴漢の冤罪事件をでっち上げたのが○○○だったとは。その真相を知った
儀堂のバディ、榎田の怒りと、その後の奮起が嬉しかったです。宝の持ち腐れと言われて
いた榎田の能力を引き出した儀堂の手腕はお見事でした。
最終話も終盤の真相には驚かされました。犯人はまさかの人物でした。ラスト、儀堂
の事件の処理に驚かされました。何が何でも、真相を明らかにして真犯人を糾弾する
訳ではないとがわかって、より儀堂に好感が持てるようになりました。
残念なのは、儀堂とバディを組んだ刑事(元刑事もいましたが)は、事件の捜査が
終わるとその後二度と儀堂に再会出来ないところ。おそらく、彼と捜査を一緒にした
人物は、みんな最後は儀堂を認めて好意を持つと思うのだけれど、そういう馴れ合いは
一切しない主義のようです。自分の立場的なことも考えて、敢えて距離を置くように
しているのだとは思いますけどね。結局、儀堂って警察でどういう立場にいる人物
なんでしょうね。『警視庁のほう』から来たとしか言わないから、本当に警察官か
どうかすら怪しいような。まぁ、捜査に携われるのだから、警察官なのは間違いないとは
思うのですけれど・・・。
儀堂のキャラはなかなか気に入ったので、また続編が読みたいですね。

 

長岡弘樹「救済 SAVE」(講談社
タイトル通り、『救済』をテーマにした短編集。身体的、精神的になんらかの疾患を抱えた
人物が出て来るお話が多かったように思います。その辺り、ちょっと、加納朋子
さんの『トオリヌケキンシ』を思い出しました。長岡さんって、医学的な分野を扱うのが
お好きというか、お得意ですよね。
別に医大を出てらっしゃる訳でもないようなのに。勉強されてるんでしょうかね。
長岡さんらしい、小技の光る作品集になっていると思います。短いながらも、毎回結末の
意外性に驚かされて読み応えありました。

 

以下、各作品の感想を。

 

『三色の貌』
この疾患に関しては、以前読んだ本の中に出て来たので聞き覚えがありました。
震災のどさくさに紛れて、こんな犯罪行為をする人間には、本当に腹が立ちます。
『親切そうな名前』と言われてもピンと来なかったのですが、犯人の名前を知って
なるほど、と思いました。

 

『最期の晩餐』
こんな自殺の方法があるとは(絶句)。まぁ、成功しなくて良かったですが。ヤクザ者でも、
こんな風に人情味のある人物がいると思うと救われますね。こんな病気に罹ってしまったら、
日々の生活が怖くて仕方がないでしょうね・・・。

 

『ガラスの向こう側』
これは素直に騙されてしまいました。同じ警官でも、ノンキャリアの父とキャリアの息子、
身分の差が大きいところは皮肉でした。でも、もっと皮肉なのは、ノンキャリアの父親の
方が、捜査に関してはずっと優秀だったというところ。ま、やっぱり経験の差は大きい
ですよね。養子縁組に関しての法律は初めて知りました。ずっと一緒に暮らしていたら、
有り得そうなケースな気もしますけどねぇ。

 

『空目虫』
これも驚きの真相でした。騙されたという意味では、これが一番大きかったかも。
世の中には、きっとこういう家族もいるのだと思うけれど・・・。親にとっては、
一番悲しいケースかもしれない。主人公脩平の笑顔が救いになったと信じたい。

 

『焦げたパン』
窃盗常習犯が、一度成功した家に数年後にもう一度窃盗に入る話。主人公が盗みを
働いたことで、一人の人物の人生を大きく狂わせてしまった。こういう身勝手な犯罪は
本当に許せないです。最後は自業自得だと思うし、主人公は窃盗の被害者の切実な
願いを受け止めて、ちゃんと刑に服するべきだと思う。

 

『夏の終わりの時間割』
これは一番好きなお話だった。放火の犯人にも驚いたけれど、その動機にも。
年上だけど知恵遅れの友人を大事に思うその気持ちを、主人公の少年には一生忘れないで
いて欲しいと思う。お互いがお互いを思いやる、二人の真っ直ぐな友情に胸を
打たれました。二人とも、少しやり方は間違っていたけれどね。