最近お気に入りの坂井さん。これは苦手な時代物ではあるのですが、以前に
アンソロジーで一話目に当たる短編を読んだ時とても面白かったので、それが
シリーズ化され、一冊にまとまったと知って、読むのを楽しみにしていました。
火事によって視力を失った元摺師の父親と貧乏長屋で倹しい二人暮らしを続ける
お彩は、天才的な色彩感覚を持っている。ある日、その才能に気づいた謎の京男、
右近から、知り合いの菓子屋の新作菓子について意見して欲しいと頼まれる。
胡散臭い右近からの頼みを不審に思ったお彩は、けんもほろろに断るのだが、
その直後、父親の酒代を肩代わりしてもらう羽目になってしまい、仕方なく依頼を
受けることに。主人から、秋らしくて粋(スイ)なものがいいとの意向を受け、
お彩が閃いたお菓子とは――。
江戸時代に、天才的な色彩感覚に優れたカラーコーディネーターがいたとしたら
・・・どんな分野でも、色彩感覚って大事ですもんね。目の付け所がとても
面白いなぁと思いました。その時代ならではの色の名前なんかもたくさん出て来て、
すごく勉強になります。それに、色の名前が本当に美しくてお洒落。錆浅葱に
猩々緋、梅鼠に梅紫。鼠色ひとつ取っても、梅鼠以外にも白鼠、銀鼠、藤鼠、
湊鼠、錆青磁、柳鼠、桜鼠・・・色見本眺めてるだけでもうっとりしそう。
どんな色なのか見当もつかない名前もあるけど、色の名前見てるだけで楽しめそう
だし。彩の色知識の広さには感心させられるばかりでした。しかも、知識だけじゃ
なくて、どんな場所でどんな人にどんな色を使えば映えるのかがわかる、天性の
閃きを持っている。彩のような色彩感覚、羨ましいな~と思いました。現代の
カラーコーディネーターにも全くひけを取らない才能じゃないかな。でも、その
才能を見出した右近はすごいと思う。彩はなかなか右近のことを信用できない
ようで、いつもつっけんどんな態度になってしまうけれど。そのうち恋仲になったり
するのかな?と期待したのだけれど、残念ながら本書一作の中ではその距離は
大して縮まらなかったですね。でも、彩の父親の仕事を斡旋してやり、生きる
活力を与えた功績はとても大きいと思うのよね。それに対しては、彩も素直に
感謝しているようだし。右近は確かに得体の知れないところがあるけれど、きっと
根はとても良い人なのだと思うな。いくら彩の才能が欲しいからって、そうじゃ
なきゃ父親の仕事の面倒まで見てあげたりしないと思う。もう少し、彩は右近の
ことを認めてあげて欲しいなぁ。続きがまだありそうなので、今後その辺りは
少しづつ変わって行くような気がしますね。彩の元婚約者の態度も気になります
けどね。結局、まだ彩に未練がありそうな感じもするし。三角関係勃発とかって
展開もあり得るのかも!?
ラストの『紅嫌い』に出て来た紅嫌い。○○のことをこういう言い方するとは
勉強になりました。この時代から、こういう障害の人はいたのですね。いち早く
それを見抜いて反物屋に的確なアドバイスをするお彩さんに脱帽でした。
時代ものだけど、文章もとても読みやすいし、江戸時代の市井の様子や文化
なども広く知られて面白い。色薀蓄も楽しいし。めちゃくちゃ気に入りました。
続きも連載されているようで、出版されるのを心待ちにしていたいと思います。