ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

櫻井とりお「虹いろ図書館のへびおとこ」(河出書房新社)

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新刊書店でやたらに平積みで大プッシュされていた本。表紙の可愛らしさと

タイトルの不可思議さと、帯の辻村(深月)さん絶賛の文句に惹かれて、

リクエストしてみました。どんな内容なのか、手に取るまで全く予想が

つかなかった。読み始めて、まさかの児童書体裁でびっくり。まぁ、確かに

表紙の女の子は子供だし、タイトルのへびおとこもひらがなだし、いかにも

児童書って感じではあるのだけれど。

第一回氷室冴子青春文学賞大賞受賞作だそう。こういう賞が出来たのですね。

氷室さんが亡くなられても、その精神を汲むこういう賞が出来たことは

喜ばしいことです。あの才能に続く人がどんどん出て来て欲しいな。

内容も、子供向きではあるけど、大人が読んでも十分楽しめました。でも、

今学校で居場所がないと感じている子供たちに、もっと読んで欲しいかもしれない。

親の都合で転校してきた小学六年生のほのかは、スクールカーストのトップに

いるかおり姫の機嫌を損ねたことから、クラス内いじめが始まってしまう。

母親は重い病気で入院中、父親はハードな職場でパワハラまがいのことまで

受けていて心配かけたくない。母親に代わって家の家事をやりながら勉強も

頑張っている姉にも迷惑かけられない。先生は見てみぬふり。しばらくは

ひたすら耐えていたほのかだったが、ある日限界がきて、学校に行けなく

なってしまう。ほのかがたどり着いたのは、ぼろいねずみ色の建物。そこは、

へびおとこがいる図書館だった――。

へびおとこの正体は、ぶっきらぼうだけど優しい図書館員のイヌガミさん。

ほのかが図書館に逃げ込んでも、迷惑な顔もせず受け入れてくれた。逃げ場所

を見つけたほのかが毎日を生きていけたのは、イヌガミさんを始めとする

図書館の人々のおかげだと思う。普通だったら、児童相談所に通報されてる

ところだとは思うけども。そうしなかったのは、自らの経験から、ほのかの

現状を見抜いていたからなんでしょうね。そういう時に、学校が何もしてくれない

ことも。あくまでほのかを一人の人間として扱って、図書館の仕事を任せて、

居場所を作ってあげるところが温かい。ほのかに本の楽しさを教えてあげた

ところも偉い。そうやって一人前に扱ってもらえたことで、ほのか自身を

変えさせて、同じ立場のなるちゃんを助けられるほどの強さを身に着けたし、

かおり姫に真っ向から立ち向かう勇気も手に入れた。彼女の成長がまぶしかった

です。

へびおとこみたいな妖怪めいた容姿にも関わらず、だんだんとイヌガミさんが

カッコよく思えて来ました。クールで無口なのかと思いきや、結構しゃべるし

中身は至って普通の好青年。かおり姫のように偏見の目で見ず、内面を見て

付き合うほのかも良い子ですよね。

図書館の不登校児仲間であるスタビンズ君のキャラクターも良かったですね。

彼とイヌガミさんとほのか、三人の恋模様もちょこちょこ挟まれていて、きゅん

とするシーンもありましたし。ほのかのプロポーズにはびっくりしましたが。

ほのかの初恋はほろ苦いものだったけど、最終話の展開には胸がキュンキュン

しましたね。少女マンガか!って思いました(笑)。イヌガミさんのその後

にも拍子抜けしたけども。そちらの経緯も知りたいな。イヌガミさんの容姿に

頓着せず、中身を見てくれた人なんだろうな。どんなロマンスがあったのか

とても気になるなぁ。ほのかとの再会シーンも見てみたいですけども。

ラストシーンも素敵ですね。イヌガミさんが不器用に、ほのかが器用にソレを

作っていたシーンを思い出して、感慨深い気持ちになりました。ちゃんと

次世代に繋がっているんだな、と。

どんな時でも利用者個人の秘密は守らなければならない、という図書館の

精神によって、一人の少女が救われた。図書館はやっぱり素敵な場所だな、と

思わされるお話でした。面白かったです。

表紙もとっても可愛らしいですね。装丁も素敵。辻村さんが絶賛したのは

頷ける気がします。出だしの流れがかがみの孤城に似ているし。あれも、

いじめによって行き場を失った少女が、仲間の力を借りて居場所を見つけ、

成長する話だから。

生きづらく感じる少年少女たちには是非読んで欲しい作品ですね。