ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

千早茜「赤い月の香り」(集英社)

久しぶりの千早さん。結構刊行ペースが早いので、途中で追いつけなくなって、

読んだり読まなかったりになってしまった。これは図書館の新刊情報であらすじ

みかけて、面白そうだと思ったので予約してみました。

うん、これ、めっちゃ好みだった!ひょんなことから、天才調香師・小川朔の元で

働くことになった元カフェ店員の青年・朝倉満が主人公。依頼人が望むどんな香り

も作り出すことができる天才的な嗅覚を持つ調香師・朔。彼の元には、様々な

香りを求めて依頼人がやってくる――。

妖艶で謎めいた調香師の朔のキャラがとても良い。掴みどころのない、風みたいな、

月みたいな人。マンガに出て来るキャラみたい。

作品全体に流れる、独特の空気感がなんとも艶めいていて、読んでいてうっとり

してしまった。匂いの話なので、決して良い香りばかりを扱っている訳ではない

のだけれど。なんとなく、おとぎ話の中の出来事であるかのような空気感とでも

言いましょうか。朔がひとたび香りを作り出すと、それが精巧過ぎて、非現実的に

思えてしまうというか。朔というキャラクター自体、非現実的であるとも言えますが。

実際、こんなに匂いに敏感な人っているんでしょうかね。前世は犬なのかしらん。

満が前日食べたものやどんな行動をしたかも、その匂いで嗅ぎ分けてしまうという

のだから、恐ろしい。身近にこんな人いたら、やりにくいだろうなぁ(苦笑)。

主人公の満は、普通の感覚を持った人間ではあるけれど、過去に重いものを抱えて

いて、その出自も後ろ暗い。朔が、満を自分のアトリエで働くようスカウトした

理由は、終盤に明らかになります。二人にこういう繋がりがあったとは。終盤、

満は朔のもとから離れてしまうのかと悲しくなりましたが、ラストの展開には

嬉しくなりましたね。満の抱える赤い月の問題も朔によって真相がわかりましたし。

読後感もすっきり。薄いながらも凝縮された内容で、完成度が高い。さすが千早

さんだ。

しかし、読み終えてネット検索してて知ったのですが、なんと、これは続編

なのだそう。えぇ。確かに、途中いきなり知らない人物がさも当たり前のように

登場したりはしてたんだけど・・・前作があったからだったのか^^;がーん。

まぁ、いいや。この世界観をもう一度味わえるとも云える訳で。しかも、一作目は

渡辺淳一文学賞を受賞しているそう。淳ちゃんの賞かー(意味深)。

なるべく早く読まなくちゃ!