ミステリ読書録

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千早茜「神様の暇つぶし」(文藝春秋)

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千早さん新刊。女子大生が、父親より10歳ほども年上の男と恋に堕ちる話。

恋愛とかおしゃれとか、女子的なものから全く無縁の20歳の女子大生、

藤子は、父親を事故で亡くしたばかりだった。そんな藤子の前に突然現れた

のが、父親の年上の友人だった全さんだった。誰かに刺されたらしき傷を

負い、血だらけになって突然藤子の住むアパートにやって来た。その日から、

全さんは一人暮らしの藤子の家に度々やって来て、二人で食事を摂るように。

女にだらしがなく、退廃的な全さんに、藤子はいつしか心惹かれて行く――。

身体が大きく、恋愛をしたことがないコンプレックスの塊のような藤子が、

還暦に近いくらいの男性に惹かれて行く心情がとてもリアルで、ぐいぐい

引き込まれて行きました。まぁ、正直年の差がありすぎて、ちょっと

引いてしまうところもあったんですが・・・。ただ、相手の全さんが、

還暦近いジジイの筈なのに、妙に色気があって、たしかに女性がほっとかない

タイプの人なので、孤独な藤子が惹かれてしまうのも仕方がないかもしれない

なぁとは思いました。有名な写真家でもありますし、そういうタイプの人って、

芸能人にも多いけど、女性にだらしがない人が多いですからね。

普段は、この手の倫理観のない不毛な恋愛ものってあんまり好きじゃないの

ですが、千早さんの匂い立つような独特の色気のある筆致が素晴らしく、

ついつい最後まで読まされてしまった。二人の独特の距離感が良かったですね。

全さんの、藤子への慈しむような優しさにドキドキしました。冒頭から全さんの

最後は想像がついていたので、余計に終盤の展開は切なかった。特に、突然

藤子の前から全さんが何も言わずに姿を消してからの彼女の喪失感が胸に痛くて。

二人が一緒にご飯を食べるシーンがとても好きだった。全さんにとっても、

最後に藤子と一緒にいられたことが何より幸せだったんじゃないのかな。

藤子の生命力に溢れた若さに触れて。もっと生きたいと願ってしまうのは、

一番辛かったとも思うけれど。全さんが撮った藤子の写真、とても見てみたく

なりました。

全さんを失った藤子の今後が少し心配です。大事な友人まで失ってしまった

ことも、ショックだった。あんなに献血していた里見が、あんな風な最後

を迎えることが、あまりにも理不尽で悲しかった。救われなさすぎて。

そこだけは、千早さんに意義を唱えたい気持ちになりましたよ・・・。

それでも、自分のことを本気でかばって怒ってくれた藤子という友人が

いたことで、少しは救われていたのかな。そうであることを願う。

全さんのビジュアルは、もう少し年とったトヨエツとか似合いそう。

読んでいて、桜庭一樹さんの『私の男』のあの人を思い出しました。退廃的で

女を駄目にしそうな雰囲気が。

激しい性描写こそないけれど、とても官能的で情動的な愛の物語だと思いました。

千早さんはやっぱり上手い作家さんだなぁ。年の差ありすぎて、気持ち悪い

と拒絶反応示す人もいるかもしれないですけどね(TOKIOのリーダーの

結婚に拒絶反応示す人が多いらしいしね)。