ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

吉田修一「永遠と横道世之介 上」(朝日新聞出版)

大好きな横道世之介シリーズ。上下巻ですが、先に上巻だけ回って来たので、

とりあえず上巻の部分のみの感想を。

このシリーズの一作目を読んだ方なら、世之介が最後にどうなるのかをご存知

だと思います。そのラストを受けた上で、続編が出続けているというのは、なかなか

奇異なことかと思うのですが、世之介のような人間ならば、いくらでも書ききれ

ないエピソードがありそうに思えるので、そうした知らない世之介の姿をこうして

読ませてもらえるというのはとてもありがたいことです。ただ、この上下巻を

もって完結となるそうで。それはとても残念。まだまだ隠されたエピソードが

いっぱいありそうなんですもん。

ただ、前作までの内容はすっぱり忘れてしまってまして。これ誰だっけ?と

出て来る登場人物は?の連続でした^^;特に、二作目に出て来たキャラの方は

全然覚えてなかったなぁ。一作目の大学生の時の方がまだ記憶に引っかかるものが

ありましたね。世之介がプロポーズしたという二千花のことなんか、全く覚えて

なかったもの。あけみちゃんのことは、なんとなく名前は記憶にあるようなって感じ。

今回は、世之介39歳のお話。あれ、世之介って何歳であの奇禍に遭うんだっけ

・・・??多分、この作品から割りとすぐなのかも。

作中で、ちょいちょい死生観とか輪廻転生とかの話題が出て来て、その度に胸が

締め付けられるような気持ちになりました。占い師の予言も変に当たってるし。

世之介があけみちゃんと一緒に住んでいるのは、あけみちゃんがオーナーを

務める下宿屋・ドーミー吉祥寺の南。二人は籍こそ入れていないものの、ほぼ

夫婦同然の仲。なんか、不思議な関係だなぁと思いましたけど、世之介の前カノで

亡くなった二千花のことを知って、そういう理由なのかーと納得しました。あけみ

ちゃんの立場からすると、納得し難いものもあるような気もするけど、当のあけみ

ちゃんがいいって言ってるんだから、まぁいいかって感じ。周りがとやかく言う

ことではないですよね。フランス式だとでも思えば(苦笑)。

 

以下、若干ネタバレ気味感想。未読の方はご注意を!

 

 

 

 

 

 

この下宿屋になぜか居住させられる羽目になったのが、引きこもりの青年・一歩。

一歩の性格はなかなか掴みづらくて、いい子なのか悪い子なのか上巻だけでは

判断出来かねるところはあるんだけど、近所の野村のおばあちゃんを助けた件

のこともあるし、基本はいい子なんだろうな。終盤、一歩が世之介に、なぜ

人は生まれてくるのか、という質問をするのだけど、悩んだ末に出した世之介の

答えにぐっと来てしまった。世之介の未来を知っているからこそ、すごく心に

響く言葉だった。前世で、お前がいろんな人を大切にしたから、その人たちが

生まれ変わってお前を大切にしてくれてるって。つまり、大切にしたそのご褒美に

生まれて来たって。それってもう、絶対来世の世之介に言えることじゃん。

来世の世之介もきっと、絶対、幸せに生まれて来れるってことだよねって。

もう、泣けて来るよ、ほんとに、ねぇ。吉田さんはきっと、そういうことが

言いたかったんじゃないかって思いました。まだ下巻読んでないけどさ。上巻

だけで、名シーンが山程ありました。ブーダンから来た下宿人のタシさんとの

エピソードとかも良かったし。傍若無人な写真家の先輩・南郷とのエピソードも。

どんな時も、誰といても、世之介の態度って変わらない。ブレない。いい加減

そうなところもあるけど、基本真面目だし、人がいいし、誰かの為に泣けたり

笑ったり出来る、とても感情の素直な人。世之介のいいところは、他人からの

好意や感動を、素直に受け取れるところだと思うんだよね。あと、人の悪口を

言わない。なんか上手く説明出来ないけど、とにかくいつまで経っても子供みたいに

純粋なところがあって、一歩みたいな難しい子に対しても、いつもフラットな態度

で接することが出来る奇特な人。いい人って言うのとも、ちょっと違うのよね。

変に構えたり、バイアスかけて見たりもしなくて。だから、みんな世之介のことが

大好きだし、世之介にいろんなことを頼みたくなっちゃうんだろうな。面倒な

ことを頼まれても、嫌って言わないものね。人を嫌いにならないっていうか。

淡々と世之介の日常が綴られて行くお話なんだけど、それだけがなんでこんなにも

心を震わせるのでしょうか。私は、やっぱり世之介のことが大好きだなぁと

しみじみ思わせてくれる前半だった。

後編はもう実は手元にあります。もうすぐ読む予定(だったら上下巻合わせて

記事にしろよって話なんですが、先に上巻の返却期限が来ちゃうので仕方なく・・・

すみません~^^;)。

最後まで読んでしまうのが勿体ない気もするけど、早く読みたい気もするし、

ジレンマ。これで世之介とさよならなのは寂しい。輪廻転生した姿でまた

戻って来てくれないかなとも思う。どんな結末になるのか、楽しみにしていたいと

思います。