ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

近藤史恵「山の上の家事学校」(中央公論新社)

近藤さん最新作。一体いつ書いてるの?ってくらい、近藤さんってコンスタントに

新刊出ますよね。連載が多いのかもしれませんが。まぁ、ファンとしてはたくさん

新刊が読めるのはありがたいのですけれども。

今回は、男性の家事がテーマですかね。妻から突然離婚を言い渡されて一年、

新聞社に勤める幸彦の生活は、一人暮らしになって荒む一方だった。そんな中、

大阪に異動が決まったことで、報告がてら大阪で妹一家とともに暮らす母を尋ねると、

幸彦の暮らしを心配した妹から、男性の為の家事学校を紹介される。結婚時代、

家事を妻に任せっきりだった幸彦は、そこで一念発起して、学校に通う決心を

するのだが――。

幸彦の離婚事情は、離婚あるあるかもしれないですねぇ。奥さんからは、何度も

警告があったのに、それを気づかないふりしてやり過ごして、気付いた時には

時すでに遅しの状態になってしまっていた、という。男性は外に働きに出て、

女性は家を守るっていう時代なら、それでも通用したのかもしれないですけどね。

今はそういう時代じゃないですからね。共働きなら尚更ですが、共働きじゃなく

たって、家事は分担する家庭が多いんじゃないのかなぁ。特に子育てなんかは、男性

が『手伝うよ』って言うと炎上する時代ですから・・・(そもそも『手伝う』って

言葉が出るのは、妻が主体でやることが前提にあるってことですもんね)。まぁ、

うちには子供がいないので、幸彦の元奥さんのイライラを完全に理解出来た訳でも

ないのですが・・・。でも、奥さんも働いているのに、家事をほとんどしない上に、

連絡もせずに帰りが遅くなって、せっかく作ってくれた料理を食べなかったりすれば、

そりゃ、キレられて当然だよ、と思いましたね。相手に対する思いやりと想像力が

欠けてたんでしょうね。

私も、結婚当初、相方が飲み会で遅くなったのに、遅くなるって連絡がいつまで

経っても来なかった時はブチ切れましたもん。遅くなるのは別にいいんですけど、

連絡はしてもらわないと心配になりますからね(飲みすぎてどっかで倒れてるん

じゃないかとかさ)。幸彦の元奥さんは料理まで作ってたんですからね。そりゃ

キレますわ。

でも、離婚して初めてそういう妻の態度に気づいた幸彦は、山の上にある独身

男性向けの家事学校に一念発起して通う決意をします。そこで様々な家事を学ぶ

うちに、少しづつ家事をすることの楽しさも学んで行く。まぁ、その家事を

楽しむって部分で、また元妻をキレさせたりはするんですけどね。時間に余裕

がある家事学校で行う家事と、家庭で時間に追われながら切羽詰まった状況で

『やらなければならない』家事とでは、全然違いますからね。

幸彦が家事学校での成果を報告すればするほど、元奥さんとの心の距離が離れて

しまっているような感じがして、やりきれない思いがしました。でも、過去の自分

を省みて、妻の気持ちを理解しようとして、慣れない家事を学ぼうとする幸彦の

姿勢はもう少し評価してあげても、と思わなくもなかった。面倒くさいと投げずに、

きちんと学ぼうとする真摯な思いは伝わって来ましたし。出来ると楽しくなって

来るって気持ちは、家事じゃなくても芽生えるものですしね。結局、最後まで、

元妻との意思疎通は上手くいかないままだったので、ちょっと幸彦が可哀想に

なりましたね。まぁ、何度も裏切られてきた奥さんの気持ちもわかるだけに、

どちらの肩を持つってこともなかったんですが。

共働きが当たり前の今の時代、男性も家事をやるのがスタンダードになっている

ので、こういう家事学校は結構需要があるんじゃないかなぁ。料理だけじゃなくて、

家事一般を教えてもらえるっていうのがポイントが高いと思う。生活する為の

家事って、本当に細かいことからたくさんありますもん。私だって、全然出来ない

ことの方が多いから、学んでみたい授業もたくさんありそう。洗濯のやり方

だって、裁縫だって、学生時代に家庭科で学んだことなんて全く覚えてないから、

完全に自己流ですし。まぁ、自己流でもそれなりに出来るから、敢えてお金

払って行く価値があるのかってところで意見はわかれそうですけどね。今は、

何といっても、YouTubeとかで検索すれば、やり方なんていくらでも出て来ます

からねぇ。便利な世の中になったとも云えるでしょうが。でも、先生に直接指導

してもらえるのは、やっぱり上達具合が違うと思うし、同じ目的で授業を受けて

いる仲間がいるというのも、特に男性にとっては大きいのではないかなぁ。

うちの場合は、相方がほとんどの家事(料理だけは、ほぼ私担当ですが)をやって

くれる人なので、正直めっちゃ助かってます。ただ、その分、家事に対するダメ

出しも結構エグい。小姑かよ!ってツッコミたくなることもしばしば。なんせ、

私がめちゃくちゃ大雑把で適当な人間なので・・・まぁ、言われても仕方がない

ところもあるのですけどね^^;;実のところ、幸彦のことをあれこれ言う資格は

ないと思ってる^^;

幸彦の家事スキルが、実際に生活する上で役に立つのか、その真価はこれから

発揮されるのではないでしょうか。せめて、家事学校で学んだ、娘さんの髪の毛の

セットくらいは、実践出来る日が来るといいなぁと思いますね。