石持浅海さんの「賢者の贈り物」。
壊れた携帯の代替機として三種類の携帯の中から一つを選ぶことになった。今までの携帯と
同じ機種が一台、五千円分の電子マネーと五万円分の電子マネーがチャージされた最新機種が
二台。機種変を担当してくれた磯風嬢曰く、電子マネーは自由に使って構わないという。一番
オイシイのは五万円分の電子マネーが入った最新機種だ。しかし、何か裏がありそうだ。一体
どれを選ぶべきだろうか?(「金の携帯 銀の携帯」)古典の童話や民話をベースに、一つの
『謎』を追求して行く10編の短編を収録。
借りたい本が見つからず、どうしようかなぁと思っていた時にふと見かけた本書。石持さん
らしくない装丁と雰囲気で読みやすそうだったので借りてみました。読んでみたら本当に
石持さんらしくなくてびっくりしました^^;古典の名作を元に、日常で起きる謎を推理だけで
推考していく連作集。共通する人物として『磯風』という黒髪の美女が出てきます。ただし、
全ての話の磯風嬢は別人であると思われます。その時々で性格や設定が全く違うので。
言ってみれば、10のパラレルワールドを描いた作品集とも言えるのかもしれません。でも、
正直、磯風嬢が全部の作品に登場する必要性はあまりないと思いました。確かに、共通する
名前の人物が登場することで、統一性のある短編集になったとは思いますが。ここまで各作品
で磯風嬢のキャラを変えるなら、別に同じ名前にしなくても良かったんじゃないのかなぁ。
キャラの違いにかえって戸惑ってしまった。
一つの謎を推測だけでつきつめていく推理過程は面白かったのですが、ラストでもう一ひねり
あるかと思ったらそのままっていうパターンが多く、ちょっともの足りなさを感じました。
爽やかでほんわか出来る結末で読後感は良い作品が多いのだけど、童話や民話をモチーフに
しているだけに、私としてはもう少し毒がある結末の方が好みだったかも。逆に、童話や民話を
モチーフにしているからこそ、ほのぼのとした結末にしたのかもしれないですが・・・^^;
私の中では童話は毒や皮肉が入ってるものというイメージが強いので(ひねくれてる?)。
そういう意味では「玉手箱」なんかが一番作品として面白かった。結末は読者に委ねる形なので、
もやもや感は残るかもしれないけれど、主人公の到達した結論が正しければ相当ブラック
な結末になるのでは。磯風さんが一番得体の知れない女性として描かれている作品かも。
こういう余韻の残し方がある作品の方が記憶には残りますね。
爽やかで良かったのは「泡となって消える前に」。ベタな展開だけど、こういうの好きです。
謎めいた女性として登場する磯風さんの正体には嬉しくなりました。少女マンガのノリですが^^;
「過食性手紙」の設定には一番首をかしげました。そもそも、カンニングが公認されてるって
どんな学校なんだ^^;そこはツッコんじゃいけないんだろうけど、思いっきりツッコミたく
なりました(苦笑)。主人公が考えたカンニング方法、私だったらやりたくないなぁ。だって、
かなり不衛生だと思うな。多分書いてあるのは鉛筆だし、消しゴムの下に隠してあるし。
試験は自力で頑張れってことよね(あれ、違う?^^;)。一応ハッピーエンドなんだろうけど、
ラストの主人公の高飛車な態度に好感が持てず、爽やかな読後って感じはしなかったです。
多分彼は尻に敷かれそうですね・・・。
とても読みやすいので石持作品初心者や、今まで氏の作品が苦手だった人でも手に取りやすい
のではないかな。ツッコミ所は満載だし(苦笑)、全体的に食い足りなさは感じましたが、
こういう趣向の短編集は嫌いではないです。結末にあと一ひねりあったらもっと面白くなり
そうなので、そこが残念ではありました。ページ数の関係もあるから仕方ないのかな。