ミステリ読書録

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仁木英之/「胡蝶の失くし物 僕僕先生」/新潮社刊

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仁木英之さんの「胡蝶の失くし物 僕僕先生」。

気ままな旅を続ける仙人の僕僕と弟子の王弁一行。彼らの前に、暗殺集団『胡蝶』の刺客・劉欣が
現れ、命を付け狙われることに。暗殺者を前にしても、どこ吹く風といつもの態度を崩さない僕僕
とは反対に、おろおろするばかりの王弁だったが――美少女仙人とその弟子の青年との恋と旅路を
描いたキュートな唐代ロードノベル、待望の第三弾。


僕僕シリーズ第三弾です。今回は旅を続ける僕僕と王弁たちの前に、秘密暗殺集団『胡蝶』の刺客・
劉欣が現れ、彼らの命を奪おうと画策します。狙った獲物は虫けらとも思わず冷血に暗殺する劉欣
ですが、育ての両親にだけは無情の愛を注ぎ、大事にしている情深い面も持っています。今回、僕僕
の命を奪う指令を受けますが、育ての母親が死に瀕する病気になってしまったことで、僕僕から薬
を処方してもらい、僕僕に母親の命を握られてしまいます。僕僕を殺そうとすれば母の命が失われる。
でも、自分を一人前の暗殺者に育ててくれた『胡蝶』も裏切れない。劉欣は両者の間で究極のジレンマ
に陥ることになります。一撃必殺の吹き矢を必殺技に持つクールな殺し屋なのに、人間くさい悩みや
迷いを持っていてどこか憎めないキャラクターです。今回、主役である筈の王弁の印象がいつにも
増して薄かったのは、一重にこの劉欣のせいではないかと。期せずして僕僕一行の旅に加わることに
なってしまった劉欣と他のキャラたちとのやりとりも面白い。特に、何をやらせてもツメが甘く、
のほほんと生きているおぼっちゃん育ちの王弁とは正反対のキャラで、劉欣と王弁がお互いに相手を
苦々しく思うのも当然のことだろうなぁと思いました。でも、何かのきっかけでこの二人、案外
打ち解けあったりするのかも・・・いや、ないか?^^;今回のラストの展開からすると、しばらく
このメンバーで旅は続きそうなので、今後二人の関係に変化があるのかも注目です。

個人的には僕僕と王弁のいちゃいちゃがもっと見たかったなぁ。弟子の王弁にだけは何故か
やたらに厳しい僕僕ですが(気持ちはわかる気もしますが)、言葉や行動の端々から彼のことが
愛おしくて仕方がないのが伺えて、読んでいてにやけてしまいます(変人)。この先、王弁が
仙骨を手に入れることは出来るんでしょうか。二人の恋の行方が気になります。

前作で活躍した薄妃の恋の結末は、案の定の展開とはいえ、哀れでした。普段の彼女があっけらかん
とした性格なだけに、恋人の現在の状況を知った彼女がとった行動は意外でした。恋とは人を
変えるものです。でも、最後の最後で自分の意志を翻した彼女の行動には拍手を送りたい。とても
痛々しく、切ない気持ちになりましたが。何にせよ、彼女が再び旅の一行に加わったことは、
読者としては嬉しかったです。

今回、劉欣以外に登場した新キャラは蚕のお姫様・蚕嬢。見た目を想像するとかなりグロテスク
なのですが(巨大な蚕・・・^^;;)、その言動はとても愛嬌があり、憎めないキャラクター。
王弁の吹くラッパの音色に機嫌が良くなると、五色の糸を吐き出すところも面白い。なぜか
王弁がお気に入りで、彼の頭の上を第狸奴と取り合うところもほのぼの。彼女の正体に関しては
謎のままなので、次も活躍が期待できそうです。

一巻ごとに仲間が増えて行く僕僕と王弁の旅路。二人の恋の顛末も含め、まだまだ楽しみが
たくさんです。作者が楽しんで書いているのが伝わってくるところがいいですね。
次はもうちょっと二人の仲を進展させて欲しいなぁ(苦笑)。

表紙はピンク、水色ときて、本書はクリーム色。ほわんとぼやけた優しい色合いもこのシリーズ
に合っていていいですね。イラストも可愛らしい。次は何色かな。