ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

米澤穂信/「折れた竜骨」/東京創元社刊

イメージ 1

米澤穂信さんの「折れた竜骨」。

 

ロンドンから出帆し、波高き北海を三日も進んだあたりに浮かぶソロン諸島。
その領主を父に持つアミーナはある日、放浪の旅を続ける騎士ファルク・
フィッツジョンと、その従士の少年ニコラに出会う。ファルクはアミーナの父に、
御身は恐るべき魔術の使い手である暗殺騎士に命を狙われている、と告げた…。
自然の要塞であったはずの島で暗殺騎士の魔術に斃れた父、“走狗”候補の八人の
容疑者、いずれ劣らぬ怪しげな傭兵たち、沈められた封印の鐘、鍵のかかった塔上
の牢から忽然と消えた不死の青年―そして、甦った「呪われたデーン人」の襲来は
いつ?魔術や呪いが跋扈する世界の中で、「推理」の力は果たして真相に辿り
着くことができるのか?現在最も注目を集める俊英が新境地に挑んだ、魔術と剣と
謎解きの巨編登場(あらすじ抜粋)。ミステリ・フロンティアシリーズ。

 

米澤さんの新作は、久々にミステリ・フロンティアシリーズ。今までとはがらっと
作風を変えて、完全なファンタジー世界を舞台にしたミステリー。架空の島で起きた
領主殺人事件の謎を追う騎士とその弟子と、謎の解明に協力する領主の娘が主な
登場人物。この主要の三人は良いのですが、他の登場人物を把握するのがなかなかに
大変でして。特に、領主が集めた傭兵たちの区別がどうもつけられず困りました^^;
わかりやすかったのは女戦士くらい。あとは途中で名前出て来ても、これって誰
だったっけ?状態でした^^;それに、海外が舞台ってこともあって、前半は
世界観に馴染むまで結構苦戦しました^^;お正月でいろいろ出歩いてたせいも
あってか、読了するのに5日くらいかかってしまいました(二段組みとはいえ、
300ページちょいなのに^^;)。
でも、馴染んで来てからは惹きこまれてなかなか面白く読めました。もともと
ドラクエみたいな魔法とファンタジーの世界は好きですしね。
あとがきで作者ご本人も言及してらっしゃいますが、本書のキモは魔法が通用する
ような特殊世界でいかにして本格ミステリーを成立させるか、という点だと思うの
ですが、その点では見事に成功しているのではないでしょうか。領主殺害の実行犯
にも驚いたのですが、個人的にはそれよりも塔に捉えられたデーン人の脱出方法の
方が驚いたなぁ。これはもう、まさしく特殊世界でしか通用しない方法ですよね
ぇ・・・現実世界でやったら完全にアンフェアっていうか、有り得ない方法
ですもん^^;ファルクが真相を告げた時に、一点気になったところがあったの
ですが、その後できちんとそこもフォローされていたので溜飲が下がりました。



以下、若干ネタバレ気味です。未読の方はご注意ください。









ファルクと弟子のニコラのキャラが良くて、二人のやり取りがすごく好きだった
ので、終盤の展開はちょっとショックでした。でも、ラストシーンに出て来る二人
の人物のやり取りが良いので、読後感はそれほど悪くなかったです。二人の約束が
いつか実現するといいな。といっても、その時は事件が起きる時であって、片方に
ピンチが訪れるって意味でもあるのですけれど^^;
海を渡った方が成長して、二人が恋仲に・・・とかってロマンスの部分も加わって
来ると、もっと面白くなりそうなんだけどな~。さすがに、それは無理かなぁ。
身分違うし。

 

上で言及した、塔に囚われていたデーン人の脱出方法で気になった点は、身体を
切断したナイフはどこにあったのか、その後どうしたのかというところ。読み
逃したのかな?と疑問に思いながら読み進めて行ったら、ちゃんとその答えとなる
記述が出て来たのですっきりしました。ところで、この囚われていたトーステンと
協力者のヤスミナって恋仲だったのでしょうか?単にヤスミナが世話をしている
うちに同情しちゃっただけ?ついつい、変に穿った見方をしてしまうヨコシマな
自分がいたのでした。














ここまで米澤さんが直球のファンタジーを書いてくるとは意外でしたが、なかなか
面白かったです。
一作ごとに本格ミステリの完成度は上がっているように感じますね。デビュー作と
同じ作家とは思えない・・・(デビュー作をかなり酷評したワタクシ^^;)。
次回作も楽しみです。