ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

綾辻行人/「Another」/角川書店刊

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綾辻行人さんの「Another」。

 

父子家庭のぼくは、父のインドへの急な転勤で春から東京を離れて祖父母のいる
夜見山市にやってきた。春から新しい学校の三年生になる予定だったが、半年前に
患った自然気胸と呼ばれる病気が再発して入院生活を余議なくされ、学校への登校が
一月ほど遅れてしまった。
入院生活の途中、ぼくはぼくが通う予定になっている夜見山中学の制服を着た一人の
少女とエレベーターの中で出会う。左目に眼帯をしたその少女は、倉庫や機械室以外には霊安室しかない地下二階に向かっていた。ミサキ、メイと名乗ったその少女との
出会いが、すべての始まりだった――そして、ようやくぼくが登校することになった
五月の連休明け、ぼくは再び教室でメイと再会する。しかし、クラスのみんなは
なぜかメイの存在を無視している・・・メイは本当に存在しているのだろうか?
このクラスは何かが変だ――驚愕の長編ホラー小説。


うっひょ~い!面白かった!(変なテンション)綾辻さん待望の新刊。まったく、
この辺りの新本格系作家の遅筆っぷりには毎度やきもきさせられるったら。年一冊
でもいいから新刊を出して欲しいですよ。ぶつぶつ。
まぁ、前作の深泥丘奇談からはそれほど待たずに新作が出たのでよしとしま
しょう。それに、久しぶりにちゃんとミステリ要素が入ってる作品だったので大満足。これよ、これなのよ~!
私が求めている綾辻作品は~!と読み終えて実感致しました。ホラーもいいんだけどね、やっぱり一番に求めるのはミステリィなんですよ。本書は出版前は完全なホラー
なのかと思い込んでいて少々残念に思っていたのだけれど、刊行されてちょこちょこ
読んだ人の書評を見ていたら、ちゃんとラストはミステリとしての驚きがあるとの情報を得て、楽しみにしていました。その事前情報があったので、引っ掛かからないように気をつけて読んでたつもりだったんだけど、ラストはまんまとやられてしまいました。うっ、そうきたかー!!と思いました。どちらの人物も何かありそうだなぁとは思ってたんですけどね。ミステリの手法としては決して新しいものではないのですが、まんまと作者の仕掛けにはまってしまいました。さすがにこの辺りは老練の技って感じですね。

 

作風としては『囁き』シリーズに近い感じでしょうか。前半は完全にホラーテイスト。主人公の恒一が編入した三年三組というクラスにいるミサキ、メイという少女が存在
するのか、しないのか。
自分以外の全員には「見えない」存在、メイ。それに、どこか主人公に対して
よそよそしい態度をとるクラスメート。いろんな要素が不穏な空気となって恒一に
襲いかかる・・・一体、このクラスには何が起きているのか。所々ぞくりとさせられ
つつ、緊迫感を持って読みました。分厚いけれど、読みやすい文章とよどみない
ストーリー展開で、全く飽きることなく読ませる手腕はさすがです。正体不明の
眼帯少女・メイのキャラ造形がまた素晴らしい。眼帯義眼なのに、これほど魅力的に
感じさせてしまうとは!私の中では完全に『萌えキャラ』でしたよ、メイ。
三雲さんの『少女ノイズ』のメイと張るんじゃないかしら、これは。奇しくも、字は
違うけど、読みも一緒だし(笑)。クールビューティな美少女は大好きです
(オヤジ)。

 

そして、物語が進むにつれて、クラスで一人また一人とたたみかけるように人が
死んで行く中盤以降、物語はさらに加速度的に恐怖感が増して行く。26年前から
間歇的にとはいえ、たびたびこんなに学校関係で人死にが一年の間に相次いでいたら、もっと問題になってもいいような気はするんですが・・・^^;あと、教室自体を
移動してもダメなんだったら、クラスを三年二組までにするとか三組を飛ばして
四組にするとか出来なかったのかなぁとかも思ったり。学校全体で協力体制が出来てる位だから、やってみる価値はあったんじゃないのかなぁ。まぁ、その辺つっこむ
所じゃないのかもしれませんが^^;

 

あと一点、気になった所があるのですが、それは後述します。
ぞくぞくと不穏な空気を感じさせながらも、透明感のある美しい世界観で、綾辻さん
らしいホラーテイストのミステリになっていて大満足です。装丁も超好み。表紙の子はやっぱりメイですよねぇ。
オッドアイの少女なのかと思ったら義眼なんですね。でも、これだと左目が緑色で、
右目が青色に見えますけど・・・(青い義眼は左目のはず)。しかも髪が長い(メイ
はショート)。あれぇ?















以下ネタバレあり。未読の方はご注意ください。



















気になったのは、メイと未咲は二卵性とは云え、双子の姉妹なのに、なぜ名前が鳴と
未咲なのかというところ。
一体どういう経緯で双子にそういう名前をつけるんでしょう。何の繋がりもなさそうな
名前なので、不思議に感じました。名前を付けた時点では養女に出すことが決まってた
訳じゃないんだし。まぁ、そういう親もいるかもしれないけど・・・メイはメイでも、
他の字だったらわかるんだけど、鳴って字はそう人名に使う名前じゃない気がしたので。

 

あと、咲谷記念館で起きた連続殺人の犯人の動機がいまいちはっきりしなかったのは
ちょっとすっきりしなかったです。多分こうだろうってのは仄めかされてはいますけど・・・。
でも、なぜ自分の伴侶まで殺す必要があったのかが明かされていないのはやっぱり不満。
長年鬱積した伴侶への憎しみでもあって、この機に乗じて殺しちゃえってことだった
んですかねぇ・・・。





















弱冠の謎は残りましたが、トータルでは十分傑作と言っていい出来だと思います。
ホラーでもあり、ミステリでもあるけれど、少年少女のボーイミーツガールものとしての青春小説とも読めるところが秀逸ですし、大変好みでした。
久々の綾辻ミステリ、堪能しました。670ページ強が全く苦痛もなく読み切れ
ました。重かったですけど(物理的に)^^;
大満足。当然の如く、年末のミステリランキングを賑わす作品であるのは間違いないでしょう。