ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

鯨統一郎/「今宵、バーで謎解きを」/カッパノベルス刊

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鯨統一郎さんの「今宵、バーで謎解きを」。

バー<森へ抜ける道>で42歳の厄年の時に知り合った山内、僕、マスターの『ヤクドシトリオ』
は、毎夜美味しいお酒とチーズを嗜みながら、くだらない四方山話に興じる。そこにひと度
殺人事件の話題が出ると、大学院生になってますます美しくなった桜川東子さんこと『アリバイ
崩しの東子』が話に加わる。容疑者の鉄壁のアリバイも、東子さんの酔推(すいすい)にかかれば
ひとたまりもない。今宵も東子さんのギリシャ神話になぞらえた名推理が冴え渡る――シリーズ
第三弾。


バーミステリシリーズ(ヤクドシトリオシリーズ??)第三弾。相変わらずゆるいですねぇ。
今回はどのお話もギリシア神話をヒントにした謎解き。これがまたギリシア神話である必要性が
さほど感じられず、からまわりしているような気がなきにしもあらずだったりして(^^;)。
でも、そこを突っ込んじゃぁ、いけません。鯨ミステリはそのとんちんかんなところも愛して
あげなければ。はっきりいって、ミステリとしてどうこうよりも、その前哨戦(?)となって
いるヤクドシトリオのアホ会話の方が面白くって、殺人事件の顛末なんかどうでもよくなっ
ちゃってました(苦笑)。恒例のなつかし会話も可笑しかったです。一話ごとに違うワイン
とチーズが饗され、それを嗜みながら雑談と推理が始まるのが毎度のパターン。鯨さんの
この手の短編集って、必ず決まった黄金パターンがあって、それに則ってお話が書かれるのが
セオリーになってます。良く云えばテレビの時代劇のように安心して読めるのですが、、
悪く云えばワンパターンなせいで、何作か続けて読むと若干飽きて来るところが。似たような
展開だから強く印象に残る作品がないのもちょっと痛いかな。まぁ、個人的にはヤクドシトリオの
アホな会話と、それを軽くいなしつつ我が推理に邁進する東子さんとのやりとりだけでも十分
満足出来るんですけどね(苦笑)。

東子さんのキャラ、『すべての美人は名探偵である』に出て来た時とはやっぱり随分違うという
感じがしますね。このバーにいる時はあくまでも高嶺の花のお嬢様そのもので、マスターの
アホな話題(時に下ネタも)をあっさりスルーして、興味があるのは殺人事件の顛末のみ。
ヤクドシトリオの会話にはとんと無関心を装っているくせに、最近起きた殺人事件の話題を
匂わす言葉を発したとたんにここぞとばかりに会話に参加。なんとも不思議なキャラクター。
しかも、なぜか今回、毎回ギリシア神話を引用しつつの推理。前作では日本の昔話がモチーフに
なっていたけど、東子さんはどうやらその時に研究している題材を推理に転用する傾向にある
ようですね。なんだか、苦しいなぁというのが多いんだけど、まぁ鯨さんだし。あんまり
深く考えちゃいけません。マスターのアホな発言に対する工藤の冷静なツッコミに毎回吹き出し
しまいました(笑)。ヤクドシトリオのなつかし話に関しては若干時代がずれているのでピンと
来ないものもあったのですが、基本的には『懐かし~』と感慨にひたりながら読めるネタが
多くて楽しめました。
『くだらない!』と一刀両断に切りすてる人も多いでしょうが、私はこのアホでくだらない
ゆるさが大好きです。なんだかんだでやっぱりクジラーはやめられないのでした。
なんか、作品自体に対する感想をほとんど書いてないような気がするけれど・・・ま、いっか。