ミステリ読書録

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はやみねかおる/「帰天城の謎 TRICK青春版」/講談社刊

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はやみねかおるさんの「帰天城の謎 TRICK青春版」。

中学二年の山田奈緒子は、社会科の若い藤原先生から、夏休みに先生の田舎であるN県の山間部に
ある踊螺那村に行かないかと誘われる。そこには、手品が好きな奈緒子にうってつけの面白い伝説が
あるから調べてみて欲しいという。踊螺那村には、その昔村を治めていた鬼ヶ谷一族が建てた帰天城
というお城があったが、その城が400年前に忽然と消えてしまったというのだ。夏休みは一日中
思いっきりダラダラ過ごすと決めていた奈緒子は気乗りがしなかったが、母の里見から帰天城には
埋蔵金があった筈だという情報を得て、一も二もなく参加を決めた。踊螺那村に向かった奈緒子は、
そこで日本一周武者修行の旅をしている上田次郎という奇妙な男と出会い、不可思議な事件に巻き
込まれて行く――はやみねかおるTRICKの豪華コラボレーション。完全オリジナル書き下ろし小説。


はやみねさんがTRICKのノベライズ作品を書き下ろすという情報を聞いて楽しみにしていました。
本書は、シリーズ本編よりもかなり時代をさかのぼって、山田奈緒子中学二年の時の物語。
女子中学生の山田は、その頃からやっぱりあの山田のまんまでした(笑)。友達が一人もいない
くせに、そのことを気にするでもなく、やたらに上から目線で物事を見ているゴーイングマイウェイ
な性格。お金にがめついのもこのころから健在で、友人のピンチよりも埋蔵金探しを優先
しようとするトンデモない女子中学生なのが笑えます。そんな山田は社会科の美人先生に誘われて
夏休みを利用して訪れた踊螺那村で若かりし頃の上田と出会い、事件に巻き込まれてしまう、
というのが大まかなストーリー。山田が大人になって上田と出会った時、なぜ上田のことを
覚えていなかったかという点については、一応ラストでお互いの間抜けな性質が起因している
ことがわかります。
こんな強烈な人物を忘れちゃうかなぁと少々首を傾げてしまうけれども、山田のズボラで
いい加減な性格ならありそうだ、と思えてしまうところが上手いですね。

はやみねさんの作風と小ネタの多いTRICKの世界観はなかなかはまっていて良かったです。
特にちょこちょこと挟まれる『編集部注』の山田へのツッコミが笑えました。山田、この頃から
アホな子だったんだなぁ(苦笑)。日本語の使い方の大胆な間違いには失笑しまくりでした(笑)。
上田とのかけあいも楽しかった。上田の弱点もいっぱい出てきます。天才物理学者を目指して
全国武者修業の旅の最中である上田も、やっぱりあの上田のままの性格で嬉しくなりました。

ストーリーとしては、いまいち終盤盛り上がりに欠けた感じもしましたが、全体的なゆるい空気は
TRICKシリーズそのままで、あの世界観を損ねることなく、また、はやみねさんらしい要素もきちんと
盛り込んだノベライズ作品となっているのではないでしょうか。シリーズファンにも、はやみね
ファンにも間違いなく楽しめる一冊だと思います。
ただ、山田と共に踊螺那村に行く同級生たち三人の頭文字が全員NYで統一されているのは
絶対何かの伏線だと思っていたのに、何でもなかったのは肩透かしでした。容姿が全員山田と
似たタイプというのはちゃんと理由があったのに、そっち(名前)は放置かい、とずっこけ
ました・・・。

映画の為の特別企画なのでしょうが、これ一冊きりというのは非常に勿体ない気がしますね。
今度は高校生の山田を主人公に据えて書いてくれないかなぁ。

表紙の鶴田謙二さんの絵もいいですね。奈緒子と上田のイメージぴったり。漫画化しても
良さそうだ。
ちなみにタイトルは「かえりそらじょうのなぞ」です。「きてんじょう」って読んじゃうよね、
絶対。っていうか、そっちの方が読みやすいのになーと思いながら読んでました^^;