ミステリ読書録

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劇団ひとり/「青天の霹靂」/幻冬舎刊

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劇団ひとりさんの「青天の霹靂」。

35歳の売れないマジシャン、轟晴夫。恋人もいなければお金もなく、仕事もぱっとしない。
冴えない毎日の中で、自分が生まれた意味を見いだせなくなっていた。そんな日常から脱却
しようと、晴夫は今まで避けていたテレビの深夜番組のオーディションを受ける決意をする。
オーディションではそこそこ受けて、いい手応えを感じていた。オーディションの帰り道、
結果は電話で知らせが来ることになっていた為、晴夫は携帯を握りしめて良い連絡を待っていた。
そして、携帯電話に着信が。しかし、相手はオーディション関係者ではなく、警察からだった。
警察が告げたのは思いもよらない驚愕の事実だった――著者四年半ぶりの書き下ろし新作。


陰日向に咲くは個人的には芸人本とは思えないくらい心の琴線に触れるストーリーで、その
緻密な構成に大層驚かされた作品でした。そんな劇団ひとりさんが書き下ろした待望の二作目。
一作目より構成はシンプルですが、読ませるストーリー展開は今回も健在。いやはや、やはり
この人巧いと思う。一作目がまぐれ当たりではなかったことを十分証明してる作品じゃないで
しょうか。売れないマジシャンの鬱屈した日常から始まって、そんな日常を覆す一本の電話が
かかって来ることで物語は急展開。そして、その直後に、まさしく青天の霹靂の出来事が主人公
を襲います。読みやすい文章であっという間にページが進み、前作同様二時間程度で読了。前半
で出て来たちょっとした伏線が、ラストで効いて来るところも相変わらず巧い。何より、『何の
ために生まれて来たのかわからない』と人生を嘆く晴夫が、自らの体験によって、なぜ生まれて
来たのかを学び、涙するクライマックスがとても良かった。どうしようもないと思っていた父親
や母親の本当の姿を知って、両親に対する思いが変わるところもジーンとしてしまいました。
読んで、自分の親に対してもっと感謝の気持ちを持たなきゃいけない、と思わされました。
さらさらと読めてしまうけれど、根底にあるものはすごく温かくて深い。やっぱり、作者本人が
とても温かい目線で物事を捉えられる人だからなんじゃないかな。人を感動させるポイントを
知っているってことは、自分もいろんなことに感動出来るからなんじゃないかって思う。とても
心が温まる、良いお話でした。最初は、卑屈で後ろ向きな晴夫のキャラがあんまり好感持てなかった
のだけど、最後まで読んで印象はかなり変わりました。
前半で父親の末路が明かされてしまうので、晴夫が元の場所に戻った時のシーンを読むのが辛い
と思ったのだけど・・・うわ、こうきたか!って感じでした。すごく嬉しい誤算。巧いなぁ。
確かに正太郎ならやりかねない・・・と思わせるキャラ作りがそれまでのストーリーの中でちゃんと
できてるところがまたニクイ。やっぱり、お笑いが出来る人って、基本的に頭がいいんだと思う。
きちんと計算して、こういうオチを持って来るようにストーリーを組み立てて行けるんだから。
でも、小説で成功するのは、やっぱりちゃんと普段から本を読んでないと無理だと思うのです。
水嶋ヒロも、これくらい書けるんだったら俳優の代わりに作家活動するって言ってもいいと思うけど
・・・今回の騒動、好きだっただけに、ちょっとガッカリだったんですよね・・・。作家って、
そんな簡単になれるもんじゃないと思うんで。一冊でも書いてて評価されてるんだったらまだ
納得出来ますけど。これですごい作品書いてデビューしてくれたら俄然見直して惚れ直しちゃう
んだけどねぇ。

って、話がそれた^^;すみません^^;
とにかく、劇団ひとりさんは十分小説家として評価出来る、と私は思います。物語に重厚さは
ないけど、読み終えて「あー、いい話読んだな」って温かい気持ちになれる、人の気持ちを
少しでも動かす文章が書けるってだけで、十分だと思うんですよね。私はすごく、好きなお話
でした。
表紙に本人起用ってところがちょっとアイタタタ・・・な感じはしますけれども(苦笑)。
芸人の枠を超えて、これからも小説家としても活躍して欲しいですね。
なんだか心が殺伐としてるなぁとか、優しい気持ちに飢えてるなぁって時とかにはぴったりな
作品じゃないかな。ラスト1ページのたった一言がこの作品のすべてだと思います。
言われるのはもちろん、自分が言うのも嬉しくてちょっとこそばゆい気持ちになれる素敵な言葉。
私も親に伝えたくなりました。