ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

池上永一/「トロイメライ」/角川書店刊

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とグルメは那覇の華。武太を惑わす、6つの難事件。犯人は誰だ!?19世紀、幕末時代の琉球王朝
無職の三線弾きだった武太は、新米岡っ引きに任命された。意気揚々と正義に燃えるが、世の中
うまくいかないことばかり。毎夜どこかで起こる事件と、一喜一憂する庶民の人情に触れながら、
青年はひとつずつ大人への階段を上っていく―(あらすじ抜粋)。


テンペストのスピンオフ作品集。さほど本編とのリンクがないと思っていたので読むか迷って
いたのですが、なかなかどうして、本編でお馴染みの主要キャラはほぼ総出演って感じで、ファン
には嬉しい一冊でした。主人公は本編には出て来ない(多分)庶民の新米筑佐事(岡っ引き)、
武太。そして、『テンペスト』が琉球王朝内を舞台にしていたのに対して、こちらは王宮外の庶民の
暮らしに焦点を当てた琉球市井譚という感じなので、ちょっと雰囲気は違いますね。王宮のあの
華々しさとは一転、貧しい庶民がいかに貧困に喘いで苦しい生活を余儀なくされているのか、
幼い子供が貧困の為に身売りされる様子などが、あからさまに描かれています。ただ、そんな中
でも人々は慎ましくもたくましく生きているし、文章が相変わらずあっけらかんとしていて、
深刻な場面でもどこかユーモアがあって、全く重苦しくならずに読めるところが良かったです。
主人公の武太の、正義感の強い、血気盛んな性格も良かったですね。特に、彼と涅槃院の住職・
貫長老とのやり取りが楽しかった。長老の『お前が憎いっ!お前が憎いっ!お前が憎いっ!』
のセリフが可笑しい(笑)。若い子相手に真剣にムカついてる長老のキャラが笑えました(笑)。
でも、道理の通らないことに対してはしっかり武太の味方をしてくれる辺り、なんだかんだで
義理人情に篤くて温かい人柄なのが伺えて嬉しかったです。
一作ごとに、武太の筑佐事としての成長が感じられるところも良かったですね。ともすれば感情
優先になってしまうところは、性格だから仕方ないのでしょうけれど。でも、ひと度武太が三線
弾くと人柄さえも変わって見えてしまう気がしました。武太の弾く三線の温かい音色が、心に
響きました。特に、ラストの作品で、サチオバァを偲んで三線を弾くシーンには、武太の悲しい
心情が伝わって来て、切ない気持ちになりました。

相変わらずキャラ造形がいいですね~。主要キャラの武太や大貫長老を始め、『をなり宿』
三姉妹や、美貌のジュリ(遊女)の魔加那に、謎の義賊の黒マンサージ・・・それぞれのキャラが
生き生きと動きまわって、作品に躍動感があって読んでいて小気味良い。特に魔加那のキャラが
お気に入りでした。最初は男を騙して金をせびり取る厭な女、という印象しかなかったのですが、
その行動の裏に隠された理由を知って、彼女の義侠心に心を動かされました。しかも、彼女は
あの真美那の実姉。キャラが強烈な理由もわかろうってものです(笑)。魔加那にかかると、
朝薫すらもタジタジになってしまうところが笑えました。魔加那と真美那が姉妹揃って何かを
しようとしたら、最強でしょうね・・・誰も手出し出来なそう(苦笑)。
しかし、その魔加那さえも虜にしてしまった黒マンサージって一体・・・な、何者!?本編に
出て来た誰かってこともないんでしょうけど・・・き、気になるーー(><)。ってゆーか、
マジで主役を完全に食ってしまう程、かっこ良すぎ。武太がとっても可哀想になりました^^;
結局黒マンサージの正体はわからず仕舞い。これは更なる続きを書いて欲しいなぁ、と思い
ながら本を閉じたのだけれど、記事を書くに当たって検索していたら、5月にトロイメライ2』
が出るのだそうで。なんとも、タイムリーに読んだのね~、と嬉しくなってしまったのでした。
今度は早めに予約しよう・・・。早く読みたいもの。

もちろん、寧温もしっかり出て来ますよ(一作だけですが^^;)。相変わらず美しい上に情に
篤くて、出会う人間を惹きつける魅力を振りまいております。武太もイチコロでしたね(笑)。

琉球用語には今回もちょっと苦戦したのですが、それ以外はとても楽しめました。本編のファン
ならより楽しめるとは思いますが、本編を読んでなくても十分楽しめる作品集なのではないで
しょうか。面白かったです。