ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

西尾維新/「少女不十分」/講談社ノベルス刊

イメージ 1

西尾維新さんの「少女不十分」。

「少女はあくまで、ひとりの少女に過ぎなかった……、妖怪じみているとか、怪物じみているとか、
そんな風には思えなかった。」西尾維新、原点回帰にして新境地の最新作。「少女」と「僕」の
不十分な関係(紹介文抜粋)。


なんとなく、図書館の新刊情報コーナーに載っていて、深く考えずに予約しちゃった一作。
読み始めは、『僕』の延々と続く独白が長ったらしくてどんどんイライラが募って行き、挙句
『挫折』の二文字が何度も頭の中でチラついたのですが、なんとか頑張って(ほぼ惰性で)
読んでいたら、気が付かないうちにのめり込んで先へ先へと読まされてました。物語は、ほぼ
全編が『僕』『少女U』との気狂いじみた誘拐劇の内容を回想する形で構成されています。
ここで気狂いじみた、という表現を使ったのは、誘拐するのは小学四年の少女の方で、誘拐される
側の『僕』はこの時二十歳の大学生。普通で考えたら、幼い少女による二十歳の青年の誘拐が
成立する訳はありません。そこには、『誘拐されてやろう』という明らかな青年の意志が
存在し、青年は逃げ出そうと思えばいつでも逃げ出せる状況で、敢えて少女の誘拐劇に『乗って
あげている』訳なのです。まぁ、簡単に言ってしまえば『茶番劇』ってやつです。青年が
なぜそんな茶番劇に乗ってあげたかというと、これが特に理由はなく、ただ『なんとなく』
だったりするんですね。まぁ、いたいけな少女が小刀を向けて襲いかかってきたら、そりゃ
従わざるを得ない気持ちになるのかもしれないですけどね。

なんというか、どこを取ってもツッコミ所満載のお話ではありました。一番ツッコミたく
なったところは、物置に閉じ込められた『僕』の生理現象が三日目にようやく起きる、と
いうところ。いくら監禁されてから飲まず食わずだったからって、その前には飲食してる
訳ですし、人間が三日間もトイレに行かないでいられるとは思えないんですがー・・・。
お腹が空く前に、まずはトイレの方じゃないのか?と思いました・・・。
もちろん、身勝手な理由で青年を誘拐した少女にいちいち従う従順な青年の性格にもツッコミ
入れまくりでしたけど・・・^^;
終盤、『僕』が二階で見つけたモノに関してもツッコミたい部分はあったんですが・・・
ネタバレになるのでここでは控えます^^;

ただまぁ、ツッコミ所は満載だったんですけれども。それでも、最後まで読んで、ああ、
良かった。って、素直に思えてしまったんですよね。この結末が読めて良かったって。
最初は少女の身勝手な言動にムカムカして嫌悪ばかり感じていて、『僕』が彼女に従う気持ちが
全く理解出来なかったのだけど、途中から『僕』と同様に彼女が健気に思えて来て、次第に
『僕』に共感出来るようになって行きました。
途中からは『僕』に彼女をなんとかしてあげて欲しいと思いながら読んでいたので、エピローグ
読んですごくほっとしました。誘拐劇の終わりはあっけないものだったけど、二人にとって、
お互いに人生において絶対必要不可欠な7日間だったことは間違いないことがわかったから。
この出会いにはちゃんと意味があったんだなって、嬉しくなりました。
終盤で、西尾ファンにはニヤリと出来るくだりもあります。私はさほどのファンという訳でも
なく未読作も多いので、あまりピンと来ない部分が多かったですけどね^^;

最後に明かされるUの名前も素敵ですね。これからの二人の話が読みたいなぁ。Uはずっと『僕』
に会えるのを楽しみに生きてきたんだろうな。きっと辛いことも多かった筈だけど、『僕』が
語ってくれた物語を生きがいにして生きて来たんだろうと思う。
彼女視点の物語も書いて欲しいなぁ。

ラストの展開はいかにもご都合主義で、ありきたりだろうけど、こういうのが一番乙女心を
くすぐるんだよね。
危うく挫折するところだったけど、うん。読んで良かった。面白かった。