ミステリ読書録

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三津田信三/「幽女の如き怨むもの」/原書房刊

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三津田信三さんの「幽女の如き怨むもの」。

戦前、戦中、戦後にわたる三軒の遊郭で起きた、三人の花魁が絡む不可解な連続身投げ事件。誰も
いないはずの三階から聞こえる足音、窓から逆さまに部屋をのぞき込む何か…。大人気の刀城言耶
シリーズ最新書き下ろし長編(紹介文抜粋)。


待ってました!の刀城シリーズ最新作。今回はまた変わった構成になっておりまして、第一部が
ある人物の日記、第二部が言耶に対するある女性の語り話、第三部がある怪奇小説家(ただし言耶
にあらず)の雑誌掲載原稿、そして第四部が刀城言耶による事件の解決編、という四部構成。
今回もまた、言耶が登場して活躍するまでの前フリがやたらに長かったです^^;いや、一応
第二部の女性の語り相手が言耶ではあるのですが、女性の独白という形を取っている為、言耶
自身は全く出て来ません。事件も過去に起きたものなので、今回の言耶の推理は、完全に関係者の
話や過去の資料のみから類推したものである為、安楽椅子探偵形式と言っても良いかもしれません。

内容は、戦前・戦中・戦後という三つの時代に、三軒の遊郭で起きた三人の花魁の不可解な身投げ
事件の真相を言耶が解き明かすというものです。先に、第一部はある人物の日記と書きましたが、
ある人物というのは問題の遊郭に親の借金を返す為に花魁として身売りされたある少女の花魁
体験記ともいうべき内容。遊郭での花魁の生活が赤裸々に語られていて、非常に興味深かった
と同時に、同じ女性として、とても読んでいて胸苦しくなるような内容でした。時代が時代
だっただけに、こういう少女たちはいくらでもいたのでしょうけれど、家の借金の肩代わりの
為に好きでもない男たちに自分の身体を差し出さなければならなかった苦しみというのは、
いかばかりだったのでしょう・・・。今まで漠然と、花魁っていうと、華やかで艶やかで、
煌びやかな世界というイメージでしたが、実情は、もっと生々しいというか、男の欲望を
満たす場所でしかないんですよね・・・。
しかも、悲しいのは、そうやって自分の身体で一生懸命親の借金を返しても、故郷では
花魁となった娘は『恥ずべき存在』でしかなく、大手を振って帰ることなど、決して一生
出来ない、というところ。あまりにも理不尽で、彼女の日記を読んでいて、とてもやりきれない
思いに囚われました。ただ、幸運なことに、彼女はある男性と出会って、人生ががらりと
変わることになるのですが・・・。





以下、事件の真相に触れています。未読の方はご注意を!













三つの時代それぞれで、不可解な身投げ事件が起きて、それが遊郭に出る幽女という怪奇的な
存在が絡んでいるような現象が起きる為、事件がより複雑になって行くのですが、言耶によって
明かされる三つの事件の真相には今回も素直に驚かされてしまいました。いろいろと怪しいな、
と思える部分はあったのですが。一番驚かされたのは、やっぱり三人の緋桜の真相ですね。
いや、疑問を感じる部分もあるんですけどね。だって、普通に考えたら、誰かしらが気付くと
思うでしょ。でも、『花魁』ですからね。お化粧でいくらでも変えられる、と言われたら、
納得するしかないかな、とね。『二代目だから似ててもおかしくない』という思い込みを
利用したとも書かれてますしね。
幽女の正体は、まぁ、そういうオチだとは思いましたけどね。ただ、怪異現象をきちんと論理的な
解釈で納得させる手腕は相変わらずさすが、という感じでしたね。

最初の日記に出て来た、桜子が郷里で慕っていた綾お嬢様は、後からまた出て来るのかなーと
ちょっと期待していたのに、全く出て来なかったのがちょっと残念でした。もっと重要な人物
なのかと思ってたんで^^;
初代の緋桜がその後どうなったのかとても気になっていたのですが、まさかああいうオチ
とはね・・・。あのあと、一体どんな人生を送ったのでしょうね、彼女は。織介さんのその後の
身の上にはショックを受けました。せっかく幸せを掴みかけていたのに。どこまでも不運な女性
だったのですね・・・。













とても面白かったのですが、第三部の佐古荘介の原稿の辺りでちょっとダレて読むスピードが
落ちてしまい、結局読了するのに一週間くらいかかってしまいました^^;雑誌に載せる原稿
形式で語り口が堅かったせいもあるかもしれませんが^^;
でも、やっぱり怪異とミステリの絶妙な融合具合といい、このシリーズは本格ミステリとしての
面白さは文句ないですね。今回は、それにプラスして花魁の実態という、普通では知り得ない
情報も興味深かったし、いつもとはちょっと違った読ませ方で楽しめました。


それにしても、今回も表紙怖っ^^;;夢に出て来そうです・・・ひー(><)。