ミステリ読書録

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越谷オサム/「くるくるコンパス」/ポプラ社刊

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越谷オサムさんの「くるくるコンパス」。

中学将棋部の冴えない男子3人が、転校してしまった女の子に会うために、修学旅行を抜け出して
京都から大阪へ奔走する。修学旅行のまぶしい思い出――(紹介文抜粋)。


青春小説の名手・越谷オサムさんの最新作。越谷さんの作品は数えるくらいしか読んでないけど、
いつも読む度に、自分の学生時代を思い返させてくれるような懐かしさがあって、読んでいて
ワクワクするんですよね。もちろん、越谷作品の主人公たちが経験したようなことを自分が経験
した訳ではないのですけれどね(苦笑)。

今回の主人公は中学生三人組。冴えない風貌の将棋部トリオが、鬼教師の目をかいくぐって、
修学旅行を抜け出して、大阪に転校して行った同級生の女の子に会いに行く計画を立てます。
彼らの行く手には様々な困難が待ち受けています。果たして、無事彼らは同級生に会うことが
出来るのでしょうか?・・・というのが大まかなストーリー。
現在は結婚して中年になった三人のうちの一人が、中学時代のその時の思い出を回想している
形で語られるので、年代的にも自分に近く、余計に自分の中学時代を思い出させられました。
もちろん、携帯やパソコンなど、ほとんど流通していない時代ですから、初めて行く土地で
同級生に会うなんて、中学生にしてみれば無謀もいいところ。まぁ、これでもかって位に、
トラブルに巻き込まれるので、終始ハラハラしながら読んでました^^;正直、七三分けの
銀ちゃんに出会ってから、ガラの悪いお兄さんたちに絡まれる辺りの顛末は、あまりにも
都合良く行き過ぎって気もしましたが、なんとか彼らが切り抜けられてほっとしたのも事実。
不良たちの身勝手な言動にムカムカしてたので、ああいう展開になってスカッとしましたしね。

しかし、無謀な中学生たちの無謀な冒険のドタバタを痛快に描いただけの作品かと思いきや、
最後にまさかああいう現実を突きつけられるとは。回想シーンの彼らが生き生きとしていて、
三人の友情に温かい気持ちになっていただけに、悲しかったです。伏線がああいう形で
生かされるなんて・・・。スカッと終わるのかと思っていましたが、最後はしんみり切ない
気持ちで読み終えました。
でも、それでも、三人三様、この時の修学旅行の思い出が彼らのその後の人生を少なからず
左右したのは間違いない訳で。彼らの中では、きっといつまでもキラキラ輝く大事な一番の
思い出なんでしょうね。中学生で、人生の起点となる出来事を経験出来るなんて、彼らは
とても幸せだと思う。そして、その後の人生でも付き合えって行ける友達と出会えたこともね。
一生の友達っていうのは、彼らみたいな関係のことを言うのだろうね。
あと、ユーイチのその後を知って、とても嬉しい気持ちになりました。彼はずっとずっと諦めずに
頑張ったんだねぇ・・・。気持ちが通じて良かったなぁ(涙)。

基本的にはハプニング続きのドタバタコメディですが、最後はちょっぴり切ない、越谷さんらしい
青春小説でした。