ミステリ読書録

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池井戸潤/「七つの会議」/日本経済新聞出版社刊

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池井戸潤さんの「七つの会議」。

トップセールスマンだったエリート課長・坂戸を“パワハラ”で社内委員会に訴えたのは、歳上の
万年係長・八角だった―。
いったい、坂戸と八角の間に何があったのか?パワハラ委員会での裁定、そして役員会が下した
不可解な人事。
急転する事態収束のため、役員会が指名したのは、万年二番手に甘んじてきた男、原島であった。
どこにでもありそうな中堅メーカー・東京建電とその取引先を舞台に繰り広げられる生きるための
戦い。だが、そこには誰も知らない秘密があった。
筋書きのない会議がいま、始まる―。“働くこと”の意味に迫る、クライム・ノベル(紹介文抜粋)。


池井戸さんの最新作。今回も、企業の問題点を多方向から深く抉る快作でした。

物語は、順調に出世街道を邁進していたエリートサラリーマンの坂戸が、ぐうたらで仕事にやる気
のない万年係長の八角から、ある日突然パワハラで訴えられ、その訴えが認められて降格人事の
憂き目に遭うことから始まります。不可解な降格人事が認められた裏には、隠された秘密が
ありました。それぞれの章で行われる七つの会議を通して、その秘密が徐々に明らかにされて行く
――という構成。
一章ごとに主人公も変わって、いろんな角度から徐々に真相が明らかにされて行く過程は
読み応えがありました。
まぁ、第二話のねじ六の話を読めば、何が起きたのか概要は予想出来ると思うのですが、
一章ごとにこの出来事に関わる人それぞれのドラマが出て来るので、飽きることなく読み進められ
ました。
ほんと、池井戸さんって、こういう企業内の暗部というか、外からじゃわからない隠された問題を
ドラマチックに描くのがお上手ですよね。
実際、企業内でこういうミスが出た場合、東京建電のような対応をされたら、ユーザーは何を
信じていいのかわからなくなってしまいます。
ただ、莫大な損失を恐れて企業側が隠そうとする気持ちもわからなくはないだけに、現実に
起きていそうで怖くなります。どんな時でも、企業は顧客に誠実であって欲しいと思いますが・・・。

たくさん人物が出て来ますが、それぞれに書き分けが出来ているのであまり混乱せずに読める
ところも池井戸作品の良いところ。一人一人の内面心理の掘り下げを含めた人物描写がしっかり
しているからでしょうね。
好感の持てる人物、好感の持てない人物両方出て来ますが、なんだかんだで最終的に一番好感
持てたのは八角じゃないでしょうか。一話目の時点では、単なる会社のお荷物社員にしか思え
なかったんですけどね^^;最後に一人で美味しいところをかっさらって行った感じがしました(笑)。
逆に一番好感持てなかったのは第四話の主人公、新田。第三話の優衣の章から最低の男だと
思ってましたが、内面を知って更に嫌悪感を覚えました。こういうタイプっているんですよねぇ。
自分が一番正しいと思っていて、何か自分に不都合が起きると、それを全部他人のせいにする
タイプ。なんで、優衣はこいつの本性がもっと早く見抜けなかったのか・・・。ドーナツの
お金の件にもムカつきましたし。悪いと思ってない所が一番問題っていうか。章のラストは
完全に自業自得、いい気味だと思っちゃいました(黒べ)。

坂戸がしたことは確かに間違いですが、企業という歯車の中で働いていたら、こういう出来心が
芽生えることは誰にだって起こり得るのかな、と思ってしまいます。もちろん、実際にしちゃうのは
企業人として失格ですが。企業で働いたことがない私が何を言っても説得力はないですけど^^;
でも、池井戸さんの作品には、働く人にとっての含蓄がたくさん含まれています。前作でも
書いてありましたけど、どんな企業にとっても一番大事なのは、『顧客に誠実であれ』ってことじゃ
ないでしょうか。顧客を騙して利益を得たって、結局はより大きなマイナスになって自分に
返って来る。第七話の主人公、村西の父が生前に言った『客を大事にせん商売は滅びる』――
この言葉がこの作品のすべてを象徴しているのではないかと思いました。

最終的には、そうなるべき方向に収まった、と云えるでしょうか。この先、最終的に東京建電が
どうなるのかはわからないままですが。八角の身の上はどうなるのかな、と思いましたが、
やっぱり思った通りの結末でした。八角同様、私も彼にはそれが一番合っていると思いました。

企業の弱さ、人間の弱さ、働くことの意味。一冊の中でいろんなことや、いろんな人の人生が
詰まっていて、考えさせられる一冊でした。
面白かったです。