ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

有川浩/「旅猫リポート」/文藝春秋刊

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有川浩さんの「旅猫リポート」。

子供の頃から日本各地に引越しを繰り返してきたサトルは、相棒猫ナナを連れて、懐かしい人々を
訪ねる旅に出る。家業を継いだものの妻が家出中の幼馴染、今や立派な農業家となった中学時代の
親友、高校・大学の同級生同士で結婚してペンションを営む友人カップル……行く先々で思い出を
語る時間は、サトルとナナを迎える人々の胸の内にもささやかだが大切な変化を芽吹かせてゆく。
そして旅の果てに1人と1匹が見る風景とは(紹介文抜粋)。


うー。うー。これは反則だよぅ。これ、猫好きさんが読んだら、絶対間違いなく、100%
泣けるんじゃない?だって、特別猫が好きって程でもない(いや、普通に可愛いとは思い
ますけれど)私でさえ、ラストは涙うるうる涙腺決壊状態だったんだよ?猫好きに限らず、
動物を飼ったことがある人、と言い換えてもいいかもしれない。なんせ、動物飼ったことが
ない私・・・(以下略)。
いやもう、動物好きだろうがそうでなかろうが、泣けると思うって言っちゃうよ!誰が
読んだって、サトルとナナの結末に泣かされずにはいられないと思うもの。




若干結末のネタバレあります。これから読む方には先入観なしに読んで頂きたいので、
未読の方にはご遠慮頂いた方が良いかもしれません。














いやもうね。サトルとナナの絆があんまりにも深いから、一話読むごとに彼らのことが
愛おしくなるのと比例して、先を読むのが辛くて仕方なかったです。だって、冒頭の方で
だいたい先の展開読めちゃったんだもの。これほどナナを愛しているサトルが、ナナを手放さなきゃ
いけない状況って、ひとつくらいしか考えられないじゃないの。その結末に向けての伏線も次々と
出て来るし。行き着く先はひとつの結論しかなくて。そうじゃないといいのにって、思っても
その結末以外ありえなくて。
また、サトルがほんっとーーーに、いいやつなんだもん。彼の過去の一つ一つの出来事、どれを
取っても、サトルという人間の温かさと優しさの証明になっていて。あんなに悲しい過去を
抱えているのに、なんでこんなに人間出来ているんだろう、と不思議になるくらい、いい青年
なのが、余計に辛かったです。

いつもの、有川さんのベタ甘恋愛は今回ほとんど出て来ないです。でも、その代わり、この作品は
一人の青年と一匹の猫との相思相愛極上ベタ甘ストーリーです。こんなに通じあってる飼い主と
ペットもいないんじゃないかしらって位、お互いにお互いが大好きなのが伝わって来て、
そこらの恋愛小説よりも濃い愛情物語を読んだ気持ちになりました(♂同士ですけど(笑))。

また、サトルの友だちたちもみんないい人ばかりでしたね。例え誰がナナを引き取ったとしても、
ナナをきちんと育ててくれたと思う。でも、ナナはそれじゃ幸せになれなかったでしょうね。
だってサトルがいないんだから。


最後の旅でサトルとナナが見た北海道の景色があまりにも綺麗で輝きに満ちていただけに、余計に
その後の展開が悲しくて辛くて、胸が痛かったです。
忠犬ハチ公のように、毎日サトルの前に現れるナナの健気さも、その度に愛おしそうにナナを
抱きしめるサトルの腕の強さにも、胸が締め付けられました。
ナナとサトルの両者への想いの強さが切なかったです。

最後の瞬間、サトルがナナと一緒にいられて良かったです。病院の方たちの対応も粋でしたね。

そして、ラスト、ナナの旅立ちと共に、今度こそ永遠に一緒にいられることが、せめてもの救い
でしょうか。きっと二人で、再び綺麗な虹を眺めるんでしょうね・・・。


















基本、泣かせる前提のお涙頂戴もの作品で泣ける方ではないんですが。これはヤバかった・・・。
サトルとナナ、どっちのキャラも大好きだったから、余計に感情移入してしまったせいかも。
今までの有川作品ともまた違った雰囲気で、日本のあちこちを巡るロードノベル的な構成も
好きでした。

途中で出て来たラジオで本を紹介する『コダマさん』は、もちろんあの児玉さんですよね。
サトルも、児玉さんから影響を受けて本を読んでいたんだなぁ、と嬉しくなりました。

これはもう、絶対本屋大賞候補作に挙がるんじゃないですか。前回は辞退されたそうですけど、
今度こそ、大賞本命狙いと言っても良いのでは。

とても切ないけれど、読後は優しく温かい気持ちに包まれました。
ページ数は多くなけれど、たくさんの優しさと感動と愛情が凝縮された一冊です。
なんだか殺伐としていて忙しいこの年末に読めて良かったなぁ、と思いました。
個人的には、今年の年末ベスト級作品。好きだなぁ、これ。
お薦めです。