ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

押切もえ「永遠とは違う一日」/菅原和也「ブラッド・アンド・チョコレート」

どもども。暑いですねぇ。梅雨はほんとにどこに行っちゃったんでしょ。
また、後から「実は梅雨明けしてました~」とか、しれっと気象庁の発表が
あったりするのかなぁ。今年はほんとに空梅雨って感じがしますね。
水不足、大丈夫かな。


読了本は二冊です。


押切もえ「永遠とは違う一日」(新潮社)
モデルの押切もえさんが書かれた、芸能界を舞台にした連作短編小説。新聞広告で
気になったのと、文芸賞山本周五郎賞)にノミネートされたとの情報を得て、
どんなもんかと若干身構えつつ、読んでみました。
失礼ながら、正直、文章についてはあまり期待していなかったのです。でも、
予想よりもずっと丁寧な文章を書かれていて、普通に読みやすかったです。
突出するような表現力や文章力があるとも言いませんが、職業作家でももっと読みにくい
文章を書かれる方はたくさんいるし、芸能人という情報がなければ、普通に
職業作家が書かれた作品だと言われても疑わなかったと思います。
連作短編ものとしても、各作品で微妙にリンクがあって、上手い構成になっていると
思います。ただ、若干詰めの甘さを感じる部分がないでもないのですが・・・。例えば、
五話目のアキの描写なんかは、前の作品ですでにネタバレしちゃってる訳で、こういう
思わせぶりな書き方をされても、読者にはまるわかりなので、ちょっと白けてしまうというか。
一話目の鞄のくだりも、出だしの方でだいたいのオチが読めてしまいましたしね。
一番気になったのは、四話目に出て来たミワが、最終話で突然妊娠していた部分。
四話目でも全くそういう伏線が書かれていなかったので、突然降って湧いたような設定に
目が点になりました。相手は誰なんだー^^;そういう設定を使いたいのであれば、
四話目の時点で、少しでもそれらしい仄めかしは必要だったのでは。

ただ、モデルという女性の職場でずっと戦って来られた方なだけに、女同士の微妙な
感情の機微やもつれ、面倒くさい関係なんかの部分は、とてもリアリティがありました。
押切さんご自身は、非常に読書家で、たくさんの本を読まれている方なのだとか。
画家としても活躍していらっしゃるらしいし、マルチな才能をお持ちなんだなーと感心
してしまいます。天は与える所にはいくつでも与えるんですねぇ・・・はぁ。

しかし、ネットでいろいろ検索していたら、この作品が山本賞にノミネートされたことで、
ちょっとした騒動があったことを知りました。結果として、賞は湊かなえさんが受賞された
らしいのですが、当の湊さんが、この押切さんのノミネートをかなりディスられていたそうで。
話題作りの為に、芸能人作家を利用することに腹が立ったのでしょうね・・・。私は、
ノミネートされてもそれほど不思議はない出来ではないかと思ったのですが。
賞レースなんて、もともと出版業界活性化の為のものだから、多少の仕掛けがあっても
仕方がないと思うのだけどな。そんなに目くじら立てなくても・・・と思ってしまいました。
しかも受賞を逃したならともかく、されているのだもの^^;自分から出版社を敵に回さなくても
いいのになぁ。
よっぽど腹に据えかねていたのでしょうね・・・。確かに、出す本は軒並みヒットして、すでに
大作家の仲間入りをしていて、言いたいことを言える立場にもあるのでしょうけれど。
でも、そういうことを発言することで、自分の地位を貶める結果にも繋がりかねませんし。
現に、湊さんの発言に対して、ネットではかなり批判されているらしいですから・・・。
仕掛けがなければ盛り上がらない出版業界、というのも悲しいご時世ですけれどね。
個人的には、次の作品も読んでみたいと思わせるくらいの面白さはあったと思います。
次回作以降、芸能界以外を舞台にした作品で真価が問われるでしょうね。


菅原和也「ブラッド・アンド・チョコレート」(東京創元社
紅玉さんに続いて、ミステリ・フロンティアシリーズ。とりあえず、苦手そうな題材でなければ、
手を出したくなるのがこのシリーズ(笑)。
作者の方は恥ずかしながら全く存じあげなかったのですけれど、すでに何作もミステリ作品を
出されていらっしゃるのですね。それも、横溝賞を獲ってデビューされたということですから、
本格畑の方なのは間違いなく。ノーチェックだったなぁ。恥。
が、しかーし。この作品に限っては、正直、あまり好意的な評価は出来ませんでした。
人里離れた山中の研究施設で起きる密室殺人事件という、本格好きならたまらない舞台設定
ではあるのですが。
いろんな意味で、浅い。ヒロインの『血が甘い』という吸血鬼めいた嗜好も、物語に何ら
関係がなかったし、そもそものミステリの解決がぐだぐだ過ぎ。犯人は思った通りの人物だし、
主人公が開帳した偽の推理も酷すぎる。あれで周りが納得した理由については終盤で
フォローがあるのでいいとしても、読者に対しても、もうちょっと納得が行く推理を考えて
欲しかった。あれじゃ、ドンデン返しがあるってまるわかりだし。そのドンデン返しが、
全くドンデン返しに思えなかったのが何より痛かった。だって、最初から、その人物が犯人
としか思えないじゃないの。想定内過ぎて、笑ってしまったわ。ま、動機は思っていたのと
ちょっと違っていたけれど。
主人公が、ヒロインの身代わりに自首するって言ったのもちょっと理解出来なかったです。
そんなお人好しいるかい^^;
あと、殺人事件を解決して、その場を収めた主人公と従兄がすんなり自宅に帰れたのが不思議。
一度出てしまったら、二度と施設に足を踏み入れなかったかもしれないのに。警察に駆け込む
可能性だってあった筈なのに。その時はそれでいいと思ったのか。三ヶ月後に再び二人が施設を
訪れて、ああいう結末になるのだったら、帰さなきゃ良かったんじゃないのか。なんか、
やってることがちぐはぐで、違和感ばかり覚えました。まぁ、超能力を信じている人間なんて、
みんなどっか狂っているのかもしれませんが・・・。
何が嫌だったって、あの全く救いのないラストですよ。何じゃこりゃ。ラストはB級のサイコ
映画かと思いましたよ・・・。タイトルももうちょっと他のなかったのかな。全然内容
表してないじゃないの。血が甘い設定はどこ行ったんだよーっ。
なんか、いろいろ残念だった。
横溝賞受賞のやつはどうなんでしょうか。読んでみるべきか。うーん。
久々に黒べる登場になってしまった。ミステリ部分はともかく、ラストがもうちょっと
青春ミステリらしい爽やかさだったら、こんなにディスってないと思う。あんな終わり方
酷いよ。読後感最悪でした。