ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

「Story Seller Vol.3」/新潮社刊

イメージ 1

「Story Seller Vol.3」。

日本のエンターテイメントを代表する著名作家7人による豪華書き下ろし小説作品集、第三弾。
読み応えは長編並、読みやすさは短編並。面白いお話、またまた売ります。寄稿作家:沢木耕太郎
さだまさし有川浩近藤史恵佐藤友哉湊かなえ米澤穂信


著名作家7人によるALL読み切り、書き下ろし作品集、第三弾です。前作で道尾さんが抜けて
しまったことで、個人的にはかなりテンション下がったところがあったのですが、本書では更に
伊坂さんが抜けたことで、より穴が大きくなってしまったように感じました。一応、その代わり
に白羽の矢が立ったのが、現在飛ぶ鳥を落とす勢いで作品が売れている湊かなえさんということで、
一応の体面は保たれているかな、とは思うのですが。ただ、本多孝好さんが抜けてさだまさしさん
っていうのは・・・正直ちょっとガッカリでした(伊坂さんと本多さんの位置関係は便宜上
のものではありますが、作家としての地位を考えると伊坂さん→湊さん、本多さん→さださん
と考えるのが妥当かな、と)。なんでいきなりさだまさし持ってくるのさーー!?と思ってしまう
でしょ、だって。さださんの本を読んだこともないくせに、ほんとに失礼な感想ではあるんです
けれど。この感想が実際読んでどうだったかは、後述いたします。さて、さだまさしの実力は
いかに(なんか、エラそう?^^;)。


では、以下、各作品の感想。

沢木耕太郎『男派と女派 ポーカー・フェース』
旅の多い沢木さんならではの、旅先でのトラブルを綴ったエッセイ。あんなに旅行が多そうなのに
盗難の被害に遭ったことがないというのも意外でしたが、海外での初めての盗難事件で、そんな
ラッキーなことってあるんだな~、とビックリ。でも、唯一盗まれていたものに、妙に納得して
しまいました。そんなところまで律儀に物色したんだねぇ。
『今までの人生で、大事なことというのは男と女のどちらに教えてもらいましたか』という沢木
さんが神田のお寿司屋さんの親方にした質問が面白い。なかなか考えさせられる質問ですね。
私はどっちかなぁ。何を自分の中で『大事なこと』だと思うかによって、答えは違ってきますよね。

近藤史恵『ゴールよりももっと遠く』
サクリファイス』のスピンオフ、石尾と赤城が出て来るシリーズ第三弾。今回も石尾の自転車
ロードレースにかける熱き思いが感じられる良作。欲を云えばもう少しページ数欲しかったな。
石尾はほんとにまっすぐな人で、裏表のない彼の言動は読んでいて清々しい気持ちになります。
赤城とはほんとにいいコンビだと思います。これで読み収めだとしたら悲しいなぁ。

湊かなえ『楽園』
先日読んだばかりの『往復書簡』でも驚くほど毒が抜けたと感じていましたが、本作もその流れを
汲んだなかなか爽やかな読後感の良作。ミステリ要素もいい具合に挟まれているし、何より
トンガ王国ののどかで美しい情景に、自分も南国を旅している気分で読めました。トンガ王国
といえば、私の中では小学生の頃に読んだ少女漫画の中に出て来て印象に残っている島。
『なかよし』の代名詞のようなあさぎり夕先生の作品だったんだけど、作品名とか忘れちゃったなぁ。
ものすごーく行くのに遠い島ってイメージがありますね。
それにしても、いなくなった彼女を追ってトンガまで行っちゃう裕太の行動力には驚きます。
二十歳の行動とは思えなかったですけどね^^;

有川浩『作家一週間』
前ニ作とは全く作風を変えて、今回はコメディタッチ。冒頭の○○を巡る編集者とのメールの
やりとりがとにかく傑作。お互いに絶対笑いながら打ってるんだろうけど、文章だけ見てると
真剣なやりとりに見えるから可笑しい。今回も結婚している女性作家が主人公という設定なので、
やっぱり旦那さんとのやり取りは、有川さんの実生活と重ねて読んでしまいました。旦那さんの
一言から依頼されたショートショートの構想のヒントを得て、あっという間に作品を書き上げて
しまうところなんか、実際有川さんが体験していることなんだろうな、と思いました。

米澤穂信『満願』
これは今回の中でダントツ良かった。そう思うのも、私がやっぱり本格ミステリが一番好き
だからだと思うのですが。今回の作品の中では一番ミステリー色が強く、Vol.2で書かれた
作品の続きではない、単独の読み切り作品だったことがかえって良かった。貸金業の社長が
殺害された真相、特に動機には愕然としました。そんな理由でまさか。妙子の、儚くも強かな
キャラ造形が作品に物悲しい叙情性を与えていて、非常に効果的。ミステリーとしても、読み物
としても、とても完成度の高い一編だと思います。道尾さんの代わりにこういう直球のミステリー
が読めたのはとても嬉しかった。見直しちゃったぞ、ホノブー(だから、何で上から目線?)。

佐藤友哉『555のコッペン』
・・・これはもう、とにかく酷かったです。このシリーズ、一作目からかなり酷評したんです
けどもね。一応これが完結編らしいですが、一体どこが完結なんだ、と聞きたい。ミステリーの
真相もお粗末過ぎて唖然でしたが、それよりも、土江田の過去とか正体とか、全部丸投げですか。
一体、何が書きたかったんでしょうか。読み終えて、怒りしか湧いてこなかったですよ・・・。
土江田と赤井の会話は結構好きでしたけど、結局赤井は何ひとつ探偵活動なんかしてないし、
謎を解いてもいない。何ひとつ、満足に物語が終わっていないまま、完結って言われても。
多分、やっぱり基本的にこの人の作品とは合わないんだろうな、私は。タイトルのコッペンの
意味がわかった時だけ「あー、それのことか」と納得しましたが(苦笑)。でも、他は何一つ
納得できていません。作者のひとりよがりもいい加減にしてください。

さだまさし『片恋』
先述しましたように、正直、全く期待してませんでした。一部の情報では、これが意外に
良い話らしいとは聞いていたのですが、読み始めはやっぱり文章があまり好きなタイプではなく、
特に一人称に『ワタシ』という表記を使うところがどうも違和感があって、主人公のキャラも
いまいち言動にブレがある感じがして好きになれなかったです。
でも、終盤、下田宏彦の手紙の場面以降の展開はすごく心を打たれました。下田氏が主人公の
電話番号を知っていた理由は案の定ではあったし、彼のしていた行動は間違いなく犯罪行為
なのですが、彼のまっすぐで不器用で一途な思いに主人公同様、胸が締め付けられる
気持ちになりました。彼の家族の反応も、普通なら有り得ないと思うところだけど、きっと彼は
本当に家族から愛されていたのだろうと思えて、心が温まりました。ラストにこの作品を読めて
とても良かった。いやー、やるじゃないか、まさし(なぜ、呼び捨て?)。
作品を読みもしないで、さだまさしの名前見ただけでがっかりしてごめんよ。反省・・・。



今回の個人ランキングは、米澤>さだ>有川>湊>近藤>沢木>佐藤 かな。米澤さんは
ダントツ1位で、佐藤さんはダントツビリ。一作の短編としての完成度の違いが大きく出た
結果ではないかと思います。限られたページ数の中でいかに読者を満足させるか、その差
が大きく出ていると思います。まぁ、佐藤さんみたいな作品が好きな人もたくさんいるとは
思いますが・・・。

やっぱり、Vol.1があまりにも水準が高すぎたせいで、一号ごとにグレードダウンしている感は
否めないのですが、収録されている作品はどれもなかなか読ませるものばかりだったので、
今回も読み応えは十分でした。佐藤作品だけは今回もガッカリでしたが・・・。
編集者の都合で、この形式での『Story Seller』は今回で終了なのだそうです。とても残念。
まぁ、寄稿作家集めるのも大変そうですけどねぇ。でも、違う形でまた刊行される可能性は
あるようなので、楽しみに待っていたいと思います。