ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

「オールスイリ」/文藝春秋刊

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「オールスイリ」。

オール讀物創刊80周年記念号。豪華ミステリー作家陣による読み切り小説に加え、森博嗣
桜庭一樹によるミステリーエッセイも収録。一冊まるごとミステリーのスペシャルムック本。


一冊まるまるミステリーの豪華ムック本。作家陣がなかなかに豪華なので、借りてみました。
どれも水準以上の面白さはあったのではないでしょうか。ミステリー好きならば読んで損は
しないのではないかな。驚いたのは、麻耶作品。まさか、あの作品に続編が出るとは・・・。
そういう意味では、一番意表をつかれた作品かも^^;ミステリーとしては、米澤さんと
有栖川さんが安定して面白かったかな。とにかく、題材に辟易したのは乾作品。下品なこと
この上もないって感じで。読んでて、ほんとに不快な気持ちになりました・・・。不快といえば、
森さんのエッセイが個人的には一番不快でしたけどね・・・といっても、不快に感じるのは私
くらいかもしれないですけど。
ページ数のバランスに少々首を傾げるところもありましたが、きっとあまり制約をつけずに
各作家に依頼したんでしょうね。まぁ、各作家の特色は良く出てるんじゃないでしょうか。
それぞれのファンなら、どれも楽しめる作品に仕上がっていると思います。




以下、各作品の感想。

米澤穂信『軽い雨』
これは、ミステリの部分もそれなりに意表をつかれたのですが、それよりも驚いたのは、ラストで
謎解きをする人物。まさかまさかの伏兵による推理に唖然。だって、それまでのその人物の
人物像といったら、到底推理なんか出来るようなタイプに思えなかったですもの。全くやる気が
なく、何も見えていないと思っていたら・・・実はすべてを見通していた、なんて。いや、ほんと、
人は見かけによらない、の典型例を見せられた気分でした。でも、こういう意表の付き方って
面白くて好きですね。その人物の印象が最初と最後で180度変わってしまいました。

湊かなえ『望郷、白綱島
湊ミステリとしては、もう一捻り欲しかったような気もしましたが、最後の終わり方は悪くない
です。ほんと、最近は突き落とすような黒さのオチから卒業したんですかね。真相は、親子の
愛情を感じさせるもので、やるせなく、切ないものでした。

乾くるみ『嫉妬事件』
一番の問題作、じゃないでしょうか。まぁ、とにかくえげつないし、下品な話。下ネタミステリ
・・・。途中で読んでるのが苦痛で仕方なかったです。臭って来そうで・・・。こんな話で
300ページは使い過ぎでしょう。せいぜい、10~20ページのショートショートで書いて
欲しいネタです。ウ○コの連発にはほんとに辟易しました。そして、延々とページを割いた
挙句に、あの真相・・・キレそうでした・・・。

辻村深月『芹葉大学の夢と殺人』
なんとも辻村さんらしからぬ作品。最後の突き落とし方といい、全く救いがない。でも、
どうしようもない男に尽くしてしまう女性心理の辺りは、『らしい』し、さすがに上手い。
雄大の言動には、ただただ嫌悪しか覚えませんでした。殺人の真相にはもっと意外な事実が
隠されていると思っていたのですが。それよりも、未玖の落下の真相の方に暗澹たる気持ちに
なりました。女って怖い・・・。

桜庭一樹桜庭一樹のクイーン日記 どるりーれーんにおどろいた。』
エラリー・クイーンに関するエッセイ。桜庭さんらしい語り口にくすり。私もクイーンをもっと
読まねばいかんな、と思い改めさせられました。

森博嗣ミステリィについて思うこと』
このエッセイを読んで、なぜ私が森作品が好きになれないのかがわかったような気がします。
ミステリも小説もろくに読まない人間が書いた小説が面白いと思える訳がない。動機を書かない
ことといい、私、この方の小説に対する姿勢にはどうにも共感出来かねます。エッセイとしても、
だから何が言いたい訳?って聞きたくなる位、面白味がなかった。この方のエッセイはいつも
こんな感じなんでしょうか・・・どなたか面白いって言ってた気がするんだけどなぁ(黒べ)。

奥泉光『森娘の秘密』
太字多用の文章は少々鬱陶しかったのですが、ところどころにツボに入る笑いがあって、だらだら
してて冗長な印象もあるのだけど、なんだか面白く読めてしまった。ダメおやじ主人公のクワコ
のキャラが突出してて面白かった。しょーもないオッサンだし、私が学生だったらこんな人間に
勉強を教わりたくはないって思うけど、なんだか読んでいると哀愁を感じてしまって、ガンバレ
クワコー!と応援したくなる不思議な人物像でした。節約生活も面白かったし。どんなに虐げられて
いても、雑草魂たくましく頑張って生きるしぶとさに感心しちゃいました。いいオッサンなのに、
窮地に立たされて生徒たちの前でぼろぼろ泣いちゃうのはどうかと思いましたが^^;ミステリ
としてはどうということもないですが、バカバカしく笑えるところが結構好きでした。

麻耶雄嵩『少年探偵団と神様』
まさか、まさかの『神様ゲーム』の続編。あの神様鈴木が再降臨。といっても、『神様ゲーム』の
続きではなく、単に鈴木のキャラがまた出て来るってだけですが。ミステリ的には、「どこが
ミステリ?」って聞きたくなるような作品。主人公に関する○○トリックも、もっと劇的な
明かし方をすればいいのに、なんともかんとも中途半端な明かし方をしていて、一体何を狙って
こういう一人称にしたのか疑いたくなりました。せっかくみんな騙されてるとこだと思うのに、
勿体ないな、と思いました。殺人の真相も鈴木の言う通りだったし。推理はどこへ?って
思いました。まぁ、ミステリがどうとか言うよりも、少年探偵団の推理過程が作品の肝になって
いるから、これはこれでいいのかも。

有栖川有栖アポロンのナイフ』
火村シリーズ。派手な推理過程がある訳ではないのですが、やっぱり安定して面白いですね。
途中でいかにも言動が怪しい人物がいたので、その人物が事件と何らかの関係があるだろうとは
思っていたのですが、こういう真相だったとは思いませんでした。動機を考えると気持ちもわから
なくはないですが、自分勝手といえば、自分勝手な犯罪(軽犯罪でしょうが)だな、と思いました。
准教授自身の過去の問題は、いつになったら明かされるのでしょうね。こういう作品で小出し小出し
に意味深な書き方をされると、気になって仕方ないのですが^^;でも、やっぱりまだまだ
シリーズが続いて欲しいので、しばらくは勿体ぶっておいて欲しいと思います(複雑なファン
心理^^;)。



ミステリファンとしては、なかなかに美味しいムック本で満足でした。それにしても、文春って
もう80周年になるんですね。今年はこの手の80周年記念企画がいろいろあるのかな~?
80周年、オメデトウゴザイマス。