ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

三津田信三「怪談のテープ起こし」/千早茜「夜に啼く鳥は」

すっかり秋めいて来ましたね。一日、一日気温が下がって来ているのを
感じます。
今年もまた、相方との『こたつを出す出さない戦争』が始まりました。
私はもう出していいと思うんだけど・・・早すぎ!と却下されております。ぐすん。
もう朝晩寒いじゃん(><)。


今回も二冊読了。


三津田信三「怪談のテープ起こし」(集英社
実話風の怪談をまとめた三津田シリーズ短編集。作家になる前の編集者時代に、ライターの
知り合いから、自殺した人の死ぬ間際のメッセージばかりを集めたテープを入手した為、
原稿に起こし、まとめたい、という企画を提案された三津田。しかし、そのライターが
失踪してしまい、三津田の元には三人分のテープ起こし原稿が送られて来た。その
内容とは・・・。
自殺直前の人間が、手紙ではなく肉声を残すケースがそんなにあるものかな?と
ちょっと疑問は覚えたものの、やっぱりその内容にはぞぞーっとしましたね。
留守番のやつは怖かったなぁ。ただ留守番するだけで高額のバイト料がもらえる
なんて、そんな美味しい話にはやっぱり裏があるんですね(><)。
最後のオチには驚いた。やっぱり、本当に怖いのは○○ってことなんですねぇ・・・。
あとは黄色い女がどこにいても出没して来る『黃雨女』も嫌だったなぁ。情景を
想像するとめっちゃシュール^^;こんな目に遭ったらトラウマになるよ(><)。
社会人なりたての女の子が、通勤路で変なものに出会い、最終的に家まで着いて
こられてしまう『すれちがうもの』も怖かった。しかし、これのオチはあんまりだ。
とばっちりの友人が可哀想でならなかったです。
どれも背筋がすーっと凍るような怖さを覚えるものばかりでした。怪談としては、
やっぱり面白いですね。一人では絶対読みたくない^^;
ただ、ラストで三津田が、収録されている6編の共通点を推理するのですが・・・
これが、あまりにも拍子抜けの推理でがっかり。え、共通点ってそれだけ?と
思いました・・・。こんな推理だったら、なかった方が良かったくらいのような。
しかも、結構こじつけっぽいし。こんなこと言ったら、どんな作品だって共通
しちゃうんじゃないの。
怪談としての一作づつの完成度が高いだけに、連作短編としての出来のお粗末さが
残念だった。普通に怪談集とかの体裁で良かったんじゃないのかなぁ。
長編の方ももう少しで回って来そうなので、そちらに期待しよう。


千早茜「夜に啼く鳥は」(角川書店
身体の中で蟲(むし)と共生することで、他人の怪我や病気を治す力を得ている
蟲宿しの長として生きて来たミサキとその一族の物語。幻想的で耽美な世界観は、
デビュー作の『魚神』に似ているような気がします。あと、ちょっと前に読んだ
乾ルカさんの『ミツハの一族』も思い出しました。こういう、耽美で妖しい世界観
大好きなんですよねー。美しくクールなミサキと粗野だけど優しいヨン、そして
ミサキを慕う付き人の雅親、三人のキャラと関係が良かったですね。まぁ、完全に
耽美系のBL風味ではありましたけど・・・^^;;いかにもアニメとかになりそうな
設定ですよね。不老不死だし、お付きの者はいるし、『吸血姫美夕』みたいな感じ?
蟲宿しのミサキやシラが、青緑に光る蟲を操る姿がなんとも幻想的で美しかった。
ミサキの能力があれば、食材がずっと腐らずに保存出来るのかなぁ。便利かも・・・(笑)。
人間に能力を使うと生殖機能が衰えるという設定はよくわからなかったけど。
あと、ヨンの正体も結局よくわからないままなんですよね。一作目に出て来た
熊の係累なのは間違いないのだろうけど、なぜ一族のような能力があるのかは
わからず仕舞い。シラと交わったせいなのかなぁ。両性具有という設定は、
どちらの性も持たないミサキとの対比の為なのかな。本当に、何から何まで
正反対の二人ってことにしたかったんでしょうね。
ラストは、ミサキのある人物への想いが明らかになり物語が閉じる。これは、悲恋の
物語でもあったんですね。両想いなのに、切ないなぁ。
でも、ミサキはヨンと一緒にいた方が幸せになれる気がするな。身体のことだけじゃ
なくて、ヨンの性格というか、人柄に触れている方が本来のミサキでいられるのじゃ
ないかな、と思う。
しかし、ミサキのような能力の人々がいたら、医者はやって行かれなくなりそうです
よねぇ。
ちょっと残念だったのは、一話目のシラ(と熊)の子供がどんな人生を送ったのかが
書かれなかったこと。どうやってシラの血が繋がって行ったのかは書いて
欲しかったなぁ。最後に出て来た女の子は、シラの子供の係累ということですもんね。
著者インタビューが載っているページを見ていたら、千早さんは皆川博子さんが
大好きなのだそう。幻想耽美な作風はそこから来ているのかなーと納得しました。
ミサキとヨンのコンビにまた再会出来たら嬉しいなぁ。彼らがこの現代で
どうやって生きて行くのか、この先の生き方が気になります。いつかまた
彼らの物語を書いて頂きたいです。