ミステリ読書録

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舞城王太郎/「ビッチマグネット」/新潮社刊

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舞城王太郎さんの「ビッチマグネット」。

なんだか妙に仲のいい、香緒里と友徳姉弟。浮気のあげく家出してしまった父・和志とその愛人・
花さん。そして、友徳のガールフレンド=ビッチビッチな三輪あかりちゃん登場。成長小説であり、
家族をめぐるストーリーであり、物語をめぐる物語であり…。ネオ青春×家族小説(あらすじ抜粋)。



あらすじが上手くまとまらないので抜粋ですみません^^;
舞城さんの新刊。今読んでる上下巻の大作の合間に一息ついて読みました。去年刊行された
ディスコ探偵水曜日は、往年の舞城ファンでさえ死屍累々と(笑)挫折者が相次ぎ、一体舞城さんは
どこに向かって行くのかと危ぶまれるところもあったのですが(笑)、よっぽど前作で苦情が来た
のか(苦笑)、本書は一転、今までの舞城作品の中でもダントツの読みやすさ。意地と惰性で(^^;)
読み通した『ディスコ探偵~』のあの苦労と苦痛はどこに・・・というくらい、すらすーら。
あっという間の読了でした。でも、だからと言って内容が薄い訳ではありません。舞城さんらしい
ストレートに心に響く家族の物語でした。伝えたいことはとてもシンプル。香緒里と友徳、二人の
姉弟を巡る家族小説であり青春小説。広谷家では、父親の浮気のせいで母が壊れ、家族の危機。
それでも友徳はこう言います。

『つか家族って必ずしも仲良くなきゃいけない訳じゃないっしょ。家族だからって相手のやった
ことどこかで赦さなきゃいけないってこどでもないし。逆に、喧嘩ばっかりでいいし、険悪な
ムードでもいいじゃん(中略)』

そして、私が一番ぐっときたのが、続けて言った友徳の言葉。

『そういうマナーとかデリカシーとか、エチケットとか?プライバシー的なこととか、そんなこと
どうでもいいとは俺も言ってないんだよ。それはそれであるとして、でもその前に家族ってのは
一緒にいるべきなんだよ』

友徳はすごく、家族の本質をついていると思う。どんな形だって、家族は家族。いがみあっても、
喧嘩しても、無視してても、それでも一緒にいるのが家族。一緒にいるだけで、家族。でも、
香緒里はこの友徳の考え方が理解出来ない。『家族』の捉え方ひとつ取ってもズレがあること
自体が、他人であり別々の人間であると結論付ける。それもまた、ひとつの考え方だとは思う。
でも、理解出来なくても、それでも一緒にいるべきだと主張する友徳の考え方が私は好きです。
分かり合えても合えなくても、家族ってどこかで繋がっているものなんだと思う。広谷家の
場合は、父親が浮気をして、家族の心はばらばらになってしまったけれど、香緒里も友徳も
そのことで父親を責めたりしないし、母親を慰めたりもしない。どちらとも距離を置いて接して
いるから一見クールなようだけど、父も母も一人の人間として見ているからだと思う。そして、
状況はなるようにしかならないと知っているから。ちょっと変わっているかもしれないけど、
これもまた、一つの家族の形なんだろうな、と思いました。

香緒里と友徳の姉弟の関係もかなり変わってます。近親相姦!?ってくらいに仲がいいかと
思えば、ちょっとした意見の食い違いで突然全く話さなくなったり。って、これって普通の
きょうだいと一緒か。でも、二人の間の距離感というか温度差というか、関係ってどこか
普通とは違う。香緒里が変わってるからかな。でも、ひとたび友徳がピンチに陥ったら、颯爽と(?笑)
その場にかけつけて、忍び寄る魔の手から彼を救う姿はまさにヒーローの如く。カッコいいぞ、
姉ちゃん!それにしても、友徳を陥れた三輪あかりちゃんのやり方にはムカムカしました。
いるよねぇ、こういう魔性の女。でも、香緒里の方が一枚も二枚も上手。あかりをあっさり
やり込めるところにはスカっとしました。友徳も、大人しく塩中さんと付き合ってればおかしな
ことにならなかったのにねぇ。男ってバカだねぇ。でも、それもまた、青春の1ペェジってことで。

読んでいて、世界は密室でできている。を読んだ時のことを思い出しました。あの時に似た
スピード感を感じる青春小説で、読んでいて嬉しくなりました。ああ、やっぱり、舞城さんだ、と。
きっと誰もがみんな、ビッチマグネットを持っている。ラストでお母さんが明かすある事実には
私も香緒里同様『キモッ』って思いましたけどね^^;そんなビッチはイヤじゃ~^^;



ちなみに、英語だと
bitch=<不平や愚痴を言う>だそうですが、本書で使われるビッチは、
<酷い女(男)><イヤな女(男)><悪い女(男)>の意味合いが強いようです。
友徳はビッチのような女をを引き付けるマグネット、つまり、ビッチマグネットなんだそうな。
ビッチなんて単語、初めて知ったなぁ(英語オンチ)。


青春の痛みと煌めきを閉じ込めた、疾走感溢れる家族の物語。
舞城ワールド炸裂で気持ちよく読み終えました。