ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

彩瀬まる/「不在」/角川書店刊

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彩瀬まるさんの「不在」。

 

長らく疎遠だった父が、死んだ。「明日香を除く親族は屋敷に立ち入らないこと」。不可解な遺言に、
娘の明日香は戸惑いを覚えたが、医師であった父が最期まで守っていた洋館を、兄に代わり受け継ぐ
ことを決めた。25年ぶりに足を踏み入れた錦野医院には、自分の知らない父の痕跡が鏤められていた。
恋人の冬馬と共に家財道具の処分を始めた明日香だったが、整理が進むに連れ、漫画家の仕事が
ぎくしゃくし始め、さらに俳優である冬馬との間にもすれ違いが生じるようになる。次々現れる
奇妙な遺物に翻弄される明日香の目の前に、父と自分の娘と暮らしていたという女・妃美子が
現れて――。愛情のなくなった家族や恋人、その次に訪れる関係性とは。気鋭の著者が、愛に
よる呪縛と、愛に囚われない生き方とを探る。喪失と再生、野心的長篇小説!(あらすじ抜粋)


彩瀬まるさんの最新長編。長編っていっても、250ページくらいではあるんですが、
思ったよりもページが進まなくって、やたらと時間がかかってしまった。綾瀬さんの作品で
これだけ時間かかったの初めてかも。内容的にも、どうにも入っていけず、私にはいまいち
合わなかった。読書メーターの他の方の感想はのきなみ高評価だったのだけど。綾瀬さんの
文章自体は、いつものごとく所々ででドキッとするような描写が入っていて、やっぱり
いいなぁと思わせてくれたりはしたのだけど。
主人公は斑木アスカというペンネームで漫画家として成功している31歳の明日香。
長く疎遠だった父親が死んだとの知らせを受け葬式に駆けつけると、父親からの遺言で、
明日香が実家の洋館を相続することを知らされた。年下の彼氏である冬馬と共に荒れ放題
だった実家の整理を始めた明日香だったが、整理が進むにつれて仕事や恋人との間に軋轢が
生じて来て――という感じ。
淡々と進んで行くストーリーと、情緒不安定な主人公の内面描写に辟易したっていうのが
一番の敗因かなぁ。ヒロインの性格は酷かったですね。かっとなって、年下の彼氏に暴言
吐いたり、暴力ふるったり。そりゃ、いくらヒモだって逃げ出すって。まぁ、無名の俳優で、
有名な漫画家でそこそこの収入もある年上の女性に寄生して甘い汁吸ってる男の方も
どうかとは思ったけど。こういうのが共依存っていうんだろうな、と思いました。ヒロインの
明日香にしてみれば、愛情はあったのだろうけど、冬馬の方は結局明日香に対して愛情が
あったのだろうか。冬馬のキャラは、最後まで何を考えているのかよくわからなかったですね。
明日香の実家の整理を手伝ったり、明日香の母親の病院に通ったりと、献身的に行動する
ところもあるので、良い子なのは確かなのだろうけど、それもどこまでが打算だったのか
わからないし。明日香との関係は、多分だんだん不穏な方向に進んで行くんだろうなぁと
思っていたら、案の定、って感じでしたね。まぁ、どっちかっていうと、明日香の方が
悪いと思うけど、そうじゃなくても、どっちみち明日香とはダメになっていたんじゃ
ないのかなって気がする。二人の会話聞いてても、全然対等って感じじゃなかったし。
明日香は常に自分が養ってやってるって上から目線の態度だし、冬馬は明日香に対して
負い目があるのか、自分の本音を漏らしたりもしないし。
ただ、明日香は他人に対しての愛情表現が苦手なんだろうな、というのはわかりました。
それはやっぱり、父親から愛情を注いでもらえなかったことが原因なんでしょうね。
父親が亡くなる前に再会していたら、また違っていたかもしれないけれど。父親の
ベッドの下に隠してあったものを知ったら、きっと明日香も素直に話せたかもしれないし。
自業自得だとはいえ、父親の寂しい最期に切ない気持ちになりました。結局、どうして
父親が明日香に自宅を遺したのかは最後までわからず仕舞い。明日香以外の親族の
実家立ち入りを禁止した意味もわからないままだし。どういう意図があったんだろうか。
兄と母親との相続のバランスを考えると、明日香が一番もらったものが大きいと思うんだけど、
その辺の不公平は考えなかったのかなぁ。まぁ、自宅整理が一番労力も体力も使うから、それで
相殺だと思ったんだろうか。欲のない兄だから良かったけど、普通だったらすごい
揉める案件じゃないだろうか、と思ってしまった。
あと、自宅整理で度々出会った少年の正体も謎のままでしたね。やっぱり、明日香の
空想なのかな。父親の子供の頃だったのかなー。
なんか、いろいろもやもやしたまま終わってしまった。最後、別れた明日香に
舞台のチケットをしれっと送って来る冬馬の強かさもちょっと嫌だった。明日香は
良い方に捉えたみたいですけどね。私だったら行きたくないだろうなぁ。いつか、
二人が対等な立場になって向き合う日が来るのかな。共依存関係を解消したことで、
これからお互いの不在が、お互いを強くして行くのかもしれないですね。