ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

瀬尾まいこ「そして、バトンは渡された」/三津田信三「魔邸」

こんばんは。冬逆戻りですね。明日は再び雪が降るとか・・・先日、桜も開花
したというのに。
昨日、一昨日かな?内田康夫先生の訃報が飛び込んで来ました。最近こそ全く
読まなくなってしまっていたけれど、ブログ始める前に一時期やたらに浅見光彦
シリーズにはまって、読みまくっていた時があったので、とてもショックでした。
当時はドラマも結構観ていたしなぁ。映画の天河伝説とかもテレビで観たし。
御本人がちょこちょこ映像化作品に登場しているのも、おちゃめな感じで好き
でした。数年前に倒れられて、休筆していたなんて全然知らなかったです。
作家さんの訃報は、私にとっては芸能人の訃報よりも悲しい。ご冥福をお祈り
致します。

 

今回も二作ご紹介。

 

瀬尾まいこ「そして、バトンは渡された」(文藝春秋
瀬尾さんの最新作。理由あって、いろんな親からバトンリレーのように育てらる
ことになった優子の人生を描く感動作。一緒に暮らす親が何度も変わり、その度に
名字が変わる人生を歩むことになった優子。はたから見ると、親の都合で振り回
されて可哀想に思えるんですが、優子自身は特に不幸だなんて思ってない。
確かにその時々で家族の形態が変わる訳で、大変な思いもそれなりにして行くの
だけれど、自分の家庭はそういうものだと淡々と受け入て日々を過ごす。基本的に、
優子はとても素直で良い子です。ちょっとズレたところはあるけれど。
優子には、父親が三人、母親が二人います。血の繋がった父と母に、義理の父が
二人と義理の母が一人。血の繋がった実の母親は、優子が三歳の時事故で亡く
なっています。そこから優子が十七歳までに、彼女が暮らす家族の形は六回も
変わっている(実の父と母→父と梨花さん→梨花さん(と優子)→梨花さんと
泉ケ原さん→泉ケ原さん(と優子とお手伝いさん)→梨花さんと森宮さん→
森宮さん(と優子))。だからといって、彼女が児童虐待に遭ったとか、育児放棄
されたとかでは、全然ない。
彼女の家族になった父親や母親はみんな、彼女のことが大好きです。なぜ、
そんなに家族の形が変わることになったのか、それはいろんな事情があって、
としか言えないのだけれど。いろんな親からリレーのように育てられた子供の話
と知って、最初はもっと悲惨なお話を思い浮かべていたのだけれど、全く思って
いたのとは違ってました。とても、とても素敵な家族の物語です。最後に父親に
なった森宮さんとのお話が一番好きだな。優子の父親としてあらゆることに奮闘
する森宮さんがとても微笑ましかった。新学期がスタートするからって朝からカツ丼
食べさせたり、クラスで優子が孤立してしまったと知って、元気づけようとして、
なぜか毎日大量の餃子を作って食べさせたりと、ちょっとやることはズレているの
だけれど。そのどれもが、とても愛情に溢れていて、優しい。優子の親選手権で、
歴代の親と比べて劣っていると落ち込んで、優子が欲しいと言った本物のピアノを
買おうと躍起になったり。ほんとに、優子に父親として認めて欲しいんだな、と
心を打たれました。優子が合唱祭の伴奏を任されれば、秘かに課題曲を歌えるように
練習していたり。なんかもう、いちいち健気。どんだけいい父親なんだよ!って
思いました。二人のちょっと噛み合わない会話がとても好きでしたね。
二番目の母親になった梨花さんもいい人だなと思っていたけれど、二番目の
父親となった泉ケ原さんと再婚した後、裕福な暮らしに飽きて突然優子たちの
家から出て行った時は、なんて無責任な人なんだ、と腹が立ちました。そのくせ、
優子には会いたいものだから、毎日夫がいない時間を狙って自宅に遊びに来る
図々しさにも呆れましたし。かと思ったら、再婚するからと優子を引き取って、
森宮さんに引き合わせるとか。梨花が出て行った後も優子の面倒を見てくれた
泉ケ原さんに対してひどすぎないか、とほとほと呆れ果てました。その上、
森宮さんとの暮らしは数ヶ月で飽きて、再び失踪。その後は行方知れずで何年も
音信不通・・・どんだけ自分本位なんだよ、と怒りしか覚えませんでした。
・・・が、真相は、全く違っていました。こんな、真実が隠されていたなんて。
梨花さんが、どれだけ優子のことを想って愛していたのかがわかって、彼女に
腹を立てた自分がただ恥ずかしかったです。血が繋がってなくたって、梨花さんは
優子のことを本当の娘として、大事に大事に育てて来たんだとわかりました。
ただ、父親の手紙の件だけは、さすがにちょっと父親が可哀想に思いましたが。
早瀬君のキャラも好きでしたね~。優子が好きになりかけてたのに、あっさり
彼女がいるとわかった時はがっくりしましたし、その後優子に彼氏が出来た時も
早瀬君じゃなくてショックだったのだけれど。それだけに、第二章の展開は
ツボでした。他にも好きなシーンが山程あって、挙げ切れません。っていうか、
好きなシーンしかないと言っても過言じゃなくくらい、どのエピソードもツボに
来ました。もう、反則だよ、このお話!どれだけ、心に刺さるお話を書くんだ、
瀬尾さんは。読み終えて、感動に打ち震えました。プロローグとエピローグが
森宮さん視点なのも良かったですね。ひとつだけ、気になったのは、最後の
結婚式で、優子の祖父と祖母がいなかったこと。父親を呼んだのだから、呼んで
欲しかった。もしかして、二人ともすでに鬼籍に入られてしまっていたのだろう
か・・・。実の父親と梨花さんが離婚した後、いつも優子の面倒を見てくれていた
祖父と祖母と全く疎遠になってしまったのがちょっと悲しかったので。
優子を梨花さんの方が引き取ったのだから仕方がなかったのかもしれないですけど。
あと、もうひとつ。梨花さんと二人で暮らしたアパートの大家さんがその後どう
なったのかも気になりました。20万を優子にぽんと渡したのはビックリ。
太っ腹過ぎ・・・。まぁ、気になったのはそこくらい。それ以外は、パーフェクトな
エンタメ作品だと思う梨花さんのことは、最悪の事態も想定していたのだけれど、
最後の結婚式のシーンでも登場してくれたからほっとしました。幸せそうで
良かった。いいシーンのオンパレード。合唱祭のシーンも良かったし。
笑いあり、涙あり、感動あり。素晴らしい家族の物語。来年の本屋大賞候補にして
欲しい。今年、これ以上の作品に出会える気がしないくらい、大好きな作品でした。
出て来る登場人物みんな好きだったな。タイトルの意味がわかる最後は、深い感動に
包まれる筈です。第一章の最後で、森宮さんが、優子ちゃんと暮らすことになって
明日が二つになったというシーンは、この間読んだ瀬尾さんのエッセイを思い出し
ました。改めて、素敵な言葉だなぁと思う。子供を持つって、こういうこと
なんだな、と思わせられました。たくさんの人に読んでもらいたい良作です。

 

三津田信三「魔邸」(角川書店
三津田さんの家シリーズ?最新刊。母が再婚し、義父と馴染めずにいた小学六年生
の優真。そんな時、義父の海外赴任が決まり、海外での移住先が決まるまで、
懐いている叔父の別荘で暮らすことになった。しかし、叔父に連れられていった
その別荘で、優真は次々と不気味な現象に遭遇する。さらに、別荘が建っている
森には、子供が行方不明になるという神隠しの伝承があると言うのだ――。
相変わらず、不気味な家の描写を書かせたらピカ一ですね。ただ、思ったほど
には怖くなったですけど(どっちだよ)。
いろいろツッコミ所が満載だったりもするんですが、最後に判明する叔父の正体
には目が点に。いや、何か裏があるな、とは思ってたんですけどね。怜美さんの
態度も変だったしね。でも、まさか、ああいうからくりがあるとまでは思って
なかったんで。そこはさすがに予測出来なかったなぁ。
ホラーから突然現実に引き戻されて、物語がミステリに反転するところは、
さすがですね。
騙されたのは間違いないのだけど、後味は非情に悪いですね。最後の収拾も、
ああいう風にする以外にはなかったと思うんだけど、ちょっと拍子抜け。
まぁ、一番可哀想なのは、慕っていた人に裏切られた優真自身だと思うけれど・・・。
これで、人間不信にならなきゃいいけど・・・。セイについてもすっかり騙されて
ましたね~。
でも、この作品で一番怖いのって、ラスト一行じゃないですか。この人物の、
無邪気な悪意がわかった瞬間が一番怖かった。ぞぞー・・・。しかし、ソレを
置くだけで、そこまでうまく行くものかなぁ?未必の故意ってやつなんでしょう
けども。最近、こっち系の作品ばっかりだけど、刀城シリーズはどうなったん
だろう・・・。