ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

恩田陸「錆びた太陽」/一色さゆり「神の値段」

こんばんは。爽やかな季節ですね。今が一番過ごすのに楽だなぁ。朝晩冷えるので、
着るものには若干困りますが。
お庭の植物たちも新芽がぐんぐん伸びて、元気いっぱい。現在、レモンとみかんの
花が続々と咲いています。みかん、去年は花をつけたものの、ひとつも結実しなかったので、
今年こそは実が生るといいなぁ。レモンも、今年は二個以上結実して欲しいっ。


今回は、二冊読了。
返却期限の関係ですでに手元に本がないので、うろ覚えの感想になっちゃいますが・・・
内容に誤りがあったらすみません・・・。



恩田陸「錆びた太陽」(朝日新聞出版)
恩田さんの最新作。相変わらず新刊スピードが速いですねぇ。追いかけるのが
大変^^;
今回は、直木賞後初の長編小説。近未来ファンタジーって感じでしょうかね。
でも、現代的な問題も内包している意欲作だと思います。
大きな原発事故が起きた後、人間が立ち入れなくなった地域のパトロール
担当する『ウルトラエイト』と呼ばれるロボットたちの元へ、国税庁の職員だという
奇妙な女・財護徳子がやって来る。徳子の訪問を全く告げられていなかったロボット
たちは彼女の言動に戸惑うが、制限区域の実態調査をするという彼女の言葉に
逆らえず、指示に従うことに。なぜなら、ロボットたちは、ロボット三原則に従い、
人間の言葉に従い、人間の命を守らねばならないよう、プログラミングされているからだ。
しかし、徳子は、ロボットたちの思惑を無視して、度々自らの身を危険に晒そうとする。
それに、どうやら徳子には彼らに告げていない秘密があるようで――彼女の真の目的とは
何なのか?
原発の影響で死の土地と化した場所をパトロールするロボット――なんだか、近い将来
本当にこういう時代が来るのでは、と思えるような内容でした。ロボットたちがいやに
人間臭いので、あまりロボットものって感じがしなかったです。国税庁からやって来た
徳子のキャラには、度々イラッとさせられましたけどね。ロボットたちの『人間(徳子)を守ら
ねばならない』という思惑を見事に裏切り、ことあるごとに、強引に危険に身を晒すような
行動を取ろうとするので・・・。まぁ、それには、彼女なりに思惑があってのことだった
訳ではありますが。
ただ、重いテーマの割に、どこかコミカルに読めたのは、彼女の明るい性格によるところが
大きい。国税庁の職員って割には、ドジっ子気質だし。ロボットたちとのとぼけた会話には
何度かくすりとさせられたりしましたし。基本、悪い人ではないのですよね。ただ、何かに
つけ、マルピーたちから税金を搾り取ろうと画策するところには、うんざりしましたけども。
それにしても、ゾンビをマルピーと呼ぶというネーミングセンスはどうなんだろうか・・・
全然、怖い感じがしなかった(笑)。っていうか、むしろ変な親しみが湧くような^^;
あと、ロボットたちのネーミングにもくすり。ボス、マカロニ、ジーパン、デンカ、ヤマ
・・・んん?どこかで聞いたような?(笑)全体的に、昭和の香りがいろんな設定の部分で
ちらりほらり。恩田さん、結構楽しんで書いたんだろうなーって思いました。
終盤で出て来る合歓の木のシーンは印象的でした。殺伐とした大地に、美しい花の木。
絵になりますね。合歓の木って、どんな木なのかな?と思ってネット検索してみたら、
おじぎ草みたいな葉っぱに、たんぽぽの綿毛を大きくしたみたいな花(ピンク色)が
たくさんつく木らしい。

 

こんなの(ネットから引っ張って来ました)。
https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/b/belarbre820/20010101/20010101044330.jpg

 

・・・ちょっと、想像してたのと違ったかも(苦笑)。でも、徳子にとっては忘れられない
光景だったのでしょうね。
他にも、9尾の巨大な猫が出て来たり、タンブルウィードと呼ばれる巨大な青玉が襲って来たりと、
かなりシュールな世界観。タンブルウィードはどっかの国で大量発生して大変だってニュースを
いつかテレビで観たことがあると思うんだけど。今回出て来るやつは、それの超巨大版。
こんなのにぶち当たったら、人間なんてひとたまりもないですよ(怖)。
殺伐とした世界観だし、テーマも重いけど、キャラたちがあっけらかんとしているので、
かなりコミカルで、さほど深刻さもなくさらっと読めてしまいました。なかなか独特の
世界観でしたねぇ。恩田さんらしいといえば、恩田さんらしいのかも。
ただ、前作でも思ったけど、『蜜蜂と遠雷』を読んでファンになった人には、ちょっと
戸惑う作風かもしれないです。これも、読者を選ぶ作品じゃないかな。私は楽しかった
ですけどね。


一色さゆり「神の値段」(宝島社)
第14回このミス大賞大賞受賞作品。このミス系は、最近はめっきり読むのを避けて
来ていたのだけど、この作品はちょっと事情がありまして。久しぶりに手に取ることに
なりました。
というのも、友人がこの作者さんとちょっとした縁があるらしく(親しい知り合いとかではない)、
彼女から「どんな作品か読んで感想を聞かせて欲しい」と頼まれたからなのです。といっても、
頼まれたのは去年の5月なんですけどね^^;すぐ予約したんだけど、やっぱりこのミス系って
人気あるんですねぇ。結局、一年くらい回って来るのにかかりました。
内容は、メディア等に一切顔を見せない謎の現代美術家・川田無名の初期の名画を巡る
美術ミステリー。主人公は、無名の作品を専門に扱うギャラリーの経営者のアシスタント、
佐和子。経営者の永井唯子は、無名と唯一繋がりがあり、彼の作品を長く世間に発表し続けて
来た無名の一番の理解者だった。しかし、その唯子が突然何者かに殺されてしまう。彼女の
死の直前、画廊には無名が1959年に描いた幻の作品が運び込まれていた。唯子の仕事を
引き継ぐ人間として指名された佐和子は、画廊の仕事に忙殺されつつ、彼女の死の真相を
探り始めるが――。
うーん、美術小説としては読ませる部分も多いのだけど、ちょっと話が動かず中だるみ
する感じもあって、いまいち乗り切れなかったかなぁ。そもそも、無名の作品制作過程
自体に、ちょっとリアリティがないというか、抵抗がありました。だって、本人の指示
だけで、あとは他の人間がそれを受けて作品を作るっていうんだもの。それって、本当に
その人の作品って言えるものなのかな?もちろん、海外の有名画家だってチームを組んで
描いたりすることは知っているけど、完全に本人不在で他の人が全部描いて、その人の作品って
ことはないと思うんだけど・・・私が美術事情を知らないだけ?しかも、その作品が
オークションで何億って価格でやり取りされるってのも、ちょっと、ねぇ。理解しがたい
というか。しかも、画家本人は誰にも顔を見せないっていうんだから。デザイナーとか
ならわかるんだけどね。アイデアを出して、他の人が作るって図式が成立するのも。
でも、無名の場合は墨絵だし、メールで全ての指示が出る訳で。こと細かい指示はあるらしいけど、
本人の手で作品に加えられるものが何もないってのはやっぱりその人の作品とは、
どうしても言えない気がしてしまった。
あと、ミステリ的な部分には正直もっとガッカリ。犯人は、読んだほとんどの人が
「やっぱりそいつか!」って思う人物だし。オークションで無名の作品を落札した
人物には、ちょっと驚かされたけど。しかし、そんなものを譲り受けても困っちゃう
だけですよね・・・銀行の貸金庫にでも入れておくしかないような。周りに知られたら、
間違いなく泥棒とか詐欺グループとかの標的になりそうだ^^;;
うーん・・・やっぱり私は、このミス系とは相性悪いみたいです。友人には申し訳ないけれど。
個人的には、あんまり好みの作品ではなかったです。美術ミステリは大好きなので期待して
たんだけどなぁ。
美術部分とミステリ部分が、もうちょっと程よく融合されていたらもっと評価出来たかも
しれませんが。美術部分に重点が置かれ過ぎて、ミステリ部分がつけたしのようになって
いたのが敗因でしょうかね。