ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

長岡弘樹「血縁」/加藤実秋「モップガール3」

こんばんはー。今日は母の日ですね。みなさん、お母さまに何かしてあげましたか~?
私は、今日じゃないんですが、実母にはカーネーションを使ったフラワーアレンジメント(自作)、
義母には和菓子の詰め合わせをあげました(花は要らないと言われてしまったので・・・^^;)。
来月は父の日がありますね。父にはどうしようかなぁ。

 

読了本は今回も二冊ご紹介。


長岡弘樹「血縁」(集英社
七編からなる短編集。どれも、長岡さんらしい一捻りが効いた作品揃いで
良かったです。
基本的に長岡さんって、主人公に据える人物でも何らかの悪い部分を
持っていて、大抵の登場人物に嫌悪を覚えながら読むことが多い。だから、
ラストもなんだか後味が悪い印象の作品が多くて、読み終えた後ちょっと
気が滅入ったりします。人間性悪説の人なのかなぁ・・・。
まぁ、面白いからいいんですけどね。


『文字盤』
コンビニで、店長が強盗の男にナイフを突きつけられる中、電話の音が響いた。店長は
【でていいか】と書いたメモを差し出したが、男は何も答えなかった――。
コンビニ強盗がなぜ店長のメモに反応しなかったかの理由には、なるほど、と
思わされました。強盗犯の正体も。裏金の事実を知っていながら隠蔽に手を
貸した主人公の寺島には腹が立ったけれど、その事実を公にしようとして
殺されかけた末原の身の上を考えると、寺島が長いものに巻かれてしまったのも、
警察組織という枠の中で生きて行く上では仕方がないのかな、と思わされました。
倫理的には、納得は出来ないですけれどね。

 

『苦いカクテル』
認知症の父親の介護をしている姉妹だったが、ついに介護殺人に手を染めてしまう。
父親の薬に細工をしたのはどちらなのか――。
こういう問題は、本当に読んでいてやるせなくなりますね。姉妹がお互いに
同じことを考えていたとは。どちらも、父親のことを思ってやったことなだけに、
切なかったです。こういう場合に、こういう法律があるとは知りませんでした。
なかなか適用例がなさそうではありますけれど。

 

『オンブタイ』
部下の原と車に乗っていて事故にあった西条。原はその事故によって亡くなり、
西条は失明した。事故は西条の原に対するパワハラのせいで起きていた。
ある日、西条のもとへ市役所から視聴覚障害者をサポートするヘルパーだと
いう女がやって来る。目が見えない西条に、女は様々なサポートをしようとする。
次第に女に心を許して行く西条だったが――。
女の正体にはぞーっとしました。背が高くてがっしりしているという情報に
完全に騙されてましたねぇ。ちゃんと、冒頭の方に伏線が張ってあるところに感心。
そして、タイトルの意味に気づいた時に背筋が凍りました。こういう復讐の仕方が
あるとは・・・(絶句)。

 

『血縁』
幼い頃から気が強い姉の令子の言いなりで過ごして来た志保。小学生の時、
姉の言うままに万引きをした経験もあった。大人になっても、その関係は
変わらず、姉の言う通り、志保は介護ヘルパーになり、姉と同じ職場で働いていた。
ある日、志保が担当する老婆からすぐに来て欲しいと頼まれ、家に赴くことに。
老婆の家で、志保がベランダの植木鉢を動かしている時、誤って落下させてしまい、
植木鉢が老婆の頭を直撃し、老婆を殺してしまう。すると、なぜか現場に姉が
表れ、老婆の死を隠蔽することを唆すのだが――。
とにかく、こんな姉がいたら、人生終りですよ。志保がなぜ、そこまで姉の言いなり
なのかがいまいちわからなかったのですが。志保の殺人を隠蔽しようとしたのは、
実は姉の思いやりなのでは、と思ったりもしたのだけど、とことん救いのない
結末にげんなり。よくもまぁ、こんな酷い姉がいて志保はまともに育ったよね・・・。
反面教師ってやつかしらん。

 

『ラストストロー』
8年前、死刑執行のボタンを共に押した三人の男たちは、ボタンを押した日が
7日だったことから、毎月7日に『七日会』と称して同じ小料理屋に集まって
来た。今日が百回目の七日会という日、三人のうち一人の男がやって来なかった。
男が来なかった理由とは――。
タイトルの最後の藁(ラストストロー)は、一線を踏み越えさせる最後の一押しの意味。
これが、最後に効いて来るところが上手い。一人の男が七人会に来なかった理由が、
最悪の事態でなくてほっとしました。

 

『32-2』
突然、口にガムテープを貼った女が上から落ちて来た。女に見覚えはある気はするが、
誰なのかわからない。今の状況を把握出来ない自分に、女は今日一日の出来事を
話し始めた――。
これだけ、ちょっと異質な作品ですね。オチは完全にホラーだし。冒頭の語り手の
正体には驚かされましたね。長岡さんが、こういう話を書くとは思わなかったです。

 

『黄色い風船』
刑務官の梨本が飼い犬のゴールデンレトリバーのリンを散歩させていると、普段おとなしく
人懐っこい犬が、ある人物にだけ吠えかかった。梨本は、もうすぐ死刑が執行される
かもしれない死刑囚の与田の体調が気にかかっていた。しかし、担当医に診せても、
異常なしとの診断が返って来るだけだった。梨本は一計を案じ、看守長にある提案を
することに――。
この作品を読んだ直後に、ちょうどこれを探知する犬の話題をネットで見かけて、
イムリーだなーと思いました。ちょっと前から、その存在は知っていたので、
当然リンの能力にもピンと来ましたけどね。この話が、一番読後感が良かったです。
ただ、リンが気付かず、死刑が執行されていたらと思うと、ちょっとやりきれない
気持ちにはなりますね。冤罪は、本当になくなって欲しいです。
この話だけはタイトルの血縁とあまり関係がなかったような。他の話は、タイトル
通り、血縁関係が重要な意味を持つお話ばかりでした。



加藤実秋「モップガール3」(小学館文庫)
忘れたころに新刊が出るこのシリーズ。ついに堂々完結だそうで。い、今頃?^^;
キャラとか設定とか、すっかり忘れちゃってました(2巻の時もそうだった・・・)。
そもそも、このシリーズって、もともとはテレビ朝日金曜ナイトドラマの原案
だったんですよね。若かりし頃の北川景子ちゃんが主人公の桃子を演じていて、
美人な女優さんだなーと思っていたことを覚えています(他のキャストは全く
覚えていないが^^;;)。
久しぶりに読んでいて、桃子に特殊な能力があって、時代劇好きなことや、
口が悪くて寡黙な翔や犬好きの社長(犬アレルギーってことは忘れていたが)の
キャラなんかは思い出して来ました。未樹と重男のキャラは全然思い出せなかった
けど^^;
しかし、桃子の能力のことを『素敵なサムシング』っていうのはどうなんだ。
普通に能力でいいのでは・・・いちいち『素敵なサムシング』ってみんなが
言うのが、妙に読んでいて恥ずかしい気持ちになったのだけど・・・。
どうも、加藤さんのセンスって全体的に古臭いというか、昭和の香りがするのよね。
当然、本人それを狙って書いているところもあるとは思うのだけど。
桃子や翔の過去の事件のことなんかもさっぱり忘れていて、何が何やら。
こういうのは、まとめて三冊読んだ方が良いのでしょうね・・・(特に私みたいな
記憶力皆無のアホンダラは)。
まぁ、覚えてなくても、それなりに楽しく読めたからいいか。
それにしても、桃子の鈍さには参りましたね。翔がなんであんなに時代劇に
詳しくなったのか、時代劇主題歌イントロクイズも桃子に勝てる程強くなったのか、
てーんでわかっちゃいないのだから(呆)。ま、その鈍さが桃子らしいとも
言えるのでしょうけどね。
実は、苑子ってほんとは男性なのでは?とか考えてたんですよね、私。だって、
身長175センチもある女性って、なかなかそうはいないし。彼女の描写も、
ちょっと微妙な書き方してたりするし。友達の女の子からはベタ惚れされてるし。
でも、完全に考え過ぎでしたね^^;苑子のキャラ自体も、あまり好きには
なれなかったですけどね。なんか、あざとい感じがしちゃってね。翔が、なんで
彼女のことを名前で呼ぶことになったのか、そこはちょっと気になりましたけどね。

 

ま、最後は大団円で良かったです。二人の仲も、収まるところに収まりました
しねー。将来、桃子が見た未来が来るとよいですけどね。
しかし、そうだとしたら、社長の犬アレルギーはどうやって治ったのでしょうか
・・・謎。