ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

深水黎一郎「虚像のアラベスク」/越谷オサム「房総グランオテル」

こんばんは。ついに関東も梅雨入りしましたね。梅雨入り早々に台風も発生
したようで(いらんわ)。
これから毎日じめじめかぁ・・・憂鬱だなぁ・・・。


今回も二冊ご紹介ですー。


深水黎一郎「虚像のアラベスク」(角川書店
深水さん最新作。芸術探偵シリーズ二連チャンかと思いましたらば、二作目は
瞬一郎の出番はなく、海埜警部補のみ登場。エピローグで瞬一郎も出て来ましたが。
そして、芸術探偵らしく、バレエミステリ二連チャンかと思いきや・・・二作目
ではまんまとしてやられましたねぇ。このタイトルは反則だろう・・・。
二作目に瞬一郎が登場しない理由も、内容を読めば納得です。そりゃ、瞬一郎の
出番はないわね。
一作目のドンキホーテアラベスクは、正統派なバレエミステリ。バレエ薀蓄
と、専門用語が満載。一応仏語の知識がある私にはそれほど苦痛じゃなかったですけど、
普通の読者はバレエ用語の仏語解説連発には、かなり辟易するんじゃなかろうか。
私だって、くどいなーと思ったくらいなんだもの。ただ、バレエの知識はいろいろと
得られるとは思うけれども(好むと好まざるとに関わらずw)。
創立15周年記念公演を行うことになった人気の烏丸バレエ団に、公演中止を迫る脅迫状が
届いた。公演には、欧州委員会委員長のマルグリット氏も観覧予定だった。警視庁の
海埜警部補たちが警備を担当することになったが――。
このシリーズには珍しく殺人が起こらず、ラストもちょっとほっこりする結末でした。
ただまぁ、脅迫状の犯人と動機にはちょっと拍子抜けしたところもありましたけれど。
ある人物を想ってしたこととはいえ、警察も大々的に動いている訳で、ちょっと動機
から考えると、人騒がせが過ぎたかな、とは思いましたね。
あと、さすがに、マルグリット氏失踪から、ああいう展開になった時は目が点になりました。
いくら経験者だからって、練習もなしにいきなりアレはないでしょう、とツッコミたく
なりました。お客さんはお金払って来てる訳だし。いろいろとツッコミところは満載の
お話ではありました。ミステリ的にも、殺人がないだけにいつものキレがなかったのが
ちょっと残念でした。
ただ、二話目の『グラン・パ・ド・ドゥ』は、そのさらに上を行く、ツッコミどころ
『しかない』お話でした。一話目の流れを受けて読み始めるので、誰もが最初は普通の
バレエミステリだと思って読み進めて行くと思います。ただ、途中から何か変だなぁと
思い始めるはず。私もそうでした。語り手に関しては、絶対○(漢字一字)だとは
思ってましたし。でも、私が考えていたのは、○のバレエ団(上記と同じ字)だと
思ってたんですよねぇ・・・実は、実際観に行ったこともあったりしたんで。
・・・いや~~~、まさか○○(漢字二字)だとはね。語り手の用語脳内変換には、呆れを通り
越して、ある意味感心しちゃいましたよ。よくもまぁ、そこまで徹底して脳内変換
できるなぁ、と。こじつけすごい。この辺りの言葉選びは、深水さんの面目躍如とも
云えるかもしれませんが・・・。
こちらはしっかり殺人が起きるので、ミステリーとしては一話目よりは読み応えが
ある・・・かも・・・うーん。まぁ、どう読んでも、バカミスの範疇に入るのは間違い
ないと思いますけど。脱力系ミステリとでも言えばいいのかなー。私はこういうアホ
なやつも嫌いじゃないですけど、本投げつけたくなる人もいるのかも^^;;
そして、エピローグは副題通り、読まない方が良かった・・・とは思わなかったけど、
確かに、史上最低の動機と言われても納得できるかも。そ、そんな理由で殺人を!
と思う人は多いと思いますしね。しかし、○○○(ひらがな三文字)を洗えるのが、その時
だけっていうのは本当の話なんだろうか。○○にあまり詳しくないからわからないの
だけれども。
潔癖症の△△(漢字二字)だったら、確かに辛いかもしれないですね・・・。
面白かったけど、もうちょっと正統派な芸術ミステリが読みたい気持ちもあるなぁ。
せっかく芸術探偵シリーズなんだしね。


越谷オサム「房総グランオテル」(祥伝社
越谷さん最新作。房総半島にある、家族経営の民宿が舞台の群像小説。父と母が
営む民宿「房総グランオテル」の一人娘・藤平夏海は、両親の民宿を手伝いながら
高校に通う明るい女子高生。ある日、オフシーズンの平日に、三人の泊り客がやってきた。
三人三様、何か理由ありのようで――。
かつての栄光が忘れられない挫折した元ミュージシャン、上司からのパワハラに疲れた三十代の
独身OL、女子高生に一目惚れして、彼女を捜す為にやって来た自称カメラマンの元大学生。
同じ日に同じ民宿に泊まることになった三人が、それぞれの事情で様々な騒動を起こすことに。
うーん。ラストはなんとなく大団円って感じになって良かったのだけど、正直越谷さんに
しては、キャラ造形がイマイチ。民宿の客、三人とも腹に一物を抱えているせいか、誰ひとり
好感が持てるキャラがいなかった。元ミュージシャンの菅沼だけはちょっと好感持てる
部分もあったけど、栄光と挫折を味わって自暴自棄になってやさぐれている感じは結局
あんまり好きになれなかったし。夏海の従姉妹の美少女ハルカも、外見はいいのに、長いもの
には巻かれろ的な性格で、中身がスカスカって感じで好感持てなかった。根はいい子
なのかもしれないですが、欲望の為になりふり構わず愛想を振りまく姿には引いてしまった。
ただ、民宿側の登場人物、夏海・父・母に関しては、三人とものんびりとしたお人好し
キャラで、好感持てたのが救いでした。それぞれの思惑と勘違いによって、いろんな
騒動が巻き起こるのですが、ちょっと中だるみ感はあったかな。もうちょっとテンポよく
読ませてほしかった感じはしました。房総半島ののんびりした海辺の空気感は良かった
ですけど。
冒頭から夏海が拳銃で脅されるという緊迫したシーンで始まるのですが、そこのシーンに
行き着くまでが長い。どうやったらこののんびりした作品があんなシーンにつながるのか、
途中までは全く読めなかったです。菅沼の事情がわかって来たら、なんとなく予想は
つくようになったのですけども。
ラストは、三人の宿泊客の結末がそれぞれにうまく行き過ぎな印象は否めませんが、
収拾をつけるには、こういう形で良かったのかも。それにしても、グランオテルの名前の
由来がああいうものだったとは驚きました。これこそ、奇跡の邂逅ってやつですかねぇ。
菅沼は、もう一度曲を作るのかな。今は動画サイトとかで配信することもできるから、
SNSとかで拡散されれば、再ブレークもあり得るんじゃないのかなー。
パワハラOLの佐藤さんの上司にはムカつきましたね。いるんだよねぇ、こういう奴。
でも、佐藤さんの勇気で職場も動いてくれたところはスカッとしました。自称(偽)
カメラマン田中の結末だけは、ちょっと消化不良な感じでしたけど。カメラの道に
進むのかなぁ。ハルカのことは諦めた方が賢明そうですよね^^;
元気溌剌とした夏海のキャラが良かったので、もうちょっと彼女を活躍させて欲しかった
気はしました。群像形式にしたせいで、ちょっとダラけた印象のお話になっちゃった
ところが残念でした。