ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

似鳥鶏「名探偵誕生」/湊かなえ「未来」

こんばんは。暑いですねぇ。明日からの三連休(私は明日仕事だけど)は、もっと
全国的に暑くなるのだとか。豪雨の被災地の皆さんが心配です・・・。
被災された方々はもちろん、自衛隊や警察消防、ボランティアの方々が熱中症等に
罹らなければよいのですが・・・。少しでも被害が広がりませんように。


読了本はさきほど読み終えたものも含めて二冊。


似鳥鶏「名探偵誕生」(実業之日本社
似鳥さん最新作。すごい美少年風の少年が表紙になっているから、どんなかっこいい
美少年探偵が出て来るのかと思いきや、主人公は意外と普通の少年でした(笑)。
しかも、メインで『名探偵』として登場するのは、主人公の瑞人が小さい頃から隣の
家に住んでいる、綺麗な千歳お姉さん。瑞人が日常生活で不思議な謎に出会うと、
瑞人の話を聞いた千歳お姉さんが、たちまち謎を解いて解決してくれてしまうのです。
そんな瑞人と千歳が関わった事件を、瑞人が小学生の時から時系列を追って綴った
連作短編集です。一話目は瑞人小学四年生(千歳は高校生)、二話目は瑞人中学二年生、
三話目は瑞人高校二年生、四話目と五話目は、瑞人が大学二年生のお話です。
当然ながら瑞人はお隣の綺麗で優しい千歳お姉さんに小さい頃から恋心を抱いていて、
二人が関係した事件を追うのと同時に、瑞人の千歳への片想いの心情を綴っています。
可愛らしい小学生の頃の憧れの気持ちから、次第に一人の女性へのまっすぐな恋情へと
変わって行く過程にもドキドキ。千歳の方の気持ちは最後の方まで明かされていない為、
この恋愛がどんな結末を迎えるのかも楽しみでした。
まぁ、大学生編辺りから、なんとなく結末は想像出来てしまったけれど・・・。それでも、
四話の終わりでああいう展開になったし、五話の終盤では希望の持てる瞬間もあったし、
最後まで二人の恋模様にやきもきさせられました。
ミステリ的にも一話ごとにひねりがあって、面白かったです。きちんと本格風ですし。
一話目なんかは、小学生が経験する謎だから、ちょっと冒険譚風のハラハラドキドキ感も
ありましたし(ミステリランドで出したい感じ)、二話目は中学生ということで、
ほろ苦い恋愛絡みのヤングアダルト風ですし、三話目以降は高校生大学生なんで青春
ミステリ風ですし。一話ごとに年齢が上がることで、少しづつ瑞人自身も、彼の恋心も成長して
行く所が伝わって来るところが巧い構成だなぁと思いましたね。五話目では、それまで十歳
お姉さんと一緒に探偵活動を経験したことで、彼自身が謎解きに開眼する瞬間も描かれて
いますし。
今まで助けてもらって庇護してもらう立場だった瑞人が、初めて千歳お姉さんを助ける側に
回るところも、かっこよかったですしね。警察が都合よく情報を与えてくれるところは、
ちょっと強引に感じたりはしましたけども。
似鳥さんお得意の、最後には日本全国を巻き込んだ犯罪に発展する、とかの壮大過ぎる
展開にまではならなかったところも良かったです。一話ごとにだんだん事件が重くなって
行くのは、いつも通りではありましたが(最後には殺人事件に発展するし)。
子供の頃から抱き続けた千歳お姉さんへの真っ直ぐな恋心を最後まで貫いた瑞人の
キャラが良かったですね。最後は苦い結末ではありましたけれど、彼はこれから名探偵
としてたくさんの人々を救って行くことになるのでしょうね。今後の彼の活躍も見て
みたいです。
せっかく名探偵が誕生するところまでを書いたのだから、今度は、その活躍する勇姿が
読んでみたいですね。


湊かなえ「未来」(双葉社
こちらは、湊さんの最新長編ミステリー。読み応えありましたね~。総ページ数445ページ。
湊さんでここまでの長編って、あんまりなかったんじゃないかな?ただ、毎度ながら
リーダビリティは抜群なので、中盤以降は先が気になって時間を忘れて読みふけって
しまった。一泊二日の旅行が挟まった為、読了までの時間は結構かかったのだけれど。
ちょっと変わった構成になっていて、前半部分は、章子という女の子の、ある人物への
手紙のような日記のような文章のみが綴られて行きます。時間を追って綴られて行く
彼女の日常の出来事に一喜一憂しつつ、これが結構長く続くものだから、ちょっと
中だるみした感じはありました。ただ、最初は幸せそうだった彼女の文章が、次第に
暗雲立ち込めるものになって行き、どんどん不穏な方向へと進んで行くので、こちらも
身構えながら陰鬱な気持ちで読んでいた感じ。
章子の章が終わると、三人の人物のエピソードが描かれます。どの人物のエピソードも、
胸糞悪くなるものばかりで(もちろん、章子のもひどかったけど)、湊さんの黒い部分が
炸裂って感じでした。それでも、それぞれの中に救われる部分が必ず入っているので、
嫌な気分ばかりの読書ではなかったです。章子と亜里沙にはお互いがいて良かったですし、
真唯子には原田君とおばあちゃんがいたし、樋口には真珠がいた。森本とは、あんな
結末を迎えてほしくなかったな・・・。みんなそれぞれに酷い目に遭って、出口を探そうと
足掻いた結果、それぞれの未来がある。それぞれの人物に共感しながら、憤りながら
読めましたし、それだけに、それぞれの人物の今後が心配でもあります。もう結末が
わかってしまった人もいるけれど。せめて、章子と亜里沙の未来は輝かしいものであって
ほしい。子供の頃から、あんな酷い目に遭い続けて、それでも人生を投げずに前を
向いて進もうとしてるのだから。犯罪を犯すのはだめだけど・・・それでも、どうにも
ならない状況から逃げようとしての行動なのだから。
それぞれのエピソードで出て来る脇役たちは、最低最悪の人間ばかり。章子の母親文乃の
内縁の夫・早坂、亜里沙の実父の須山、真唯子の実母、森本の実父・・・全部、人の
皮を被った悪魔みたいな人間でした。自分の子供をなんだと思っているんだろう。
章子のクラスメイト・実里の言動も酷かった。月のモノに関する章子への嫌がらせは、
あまりにも外道過ぎて、吐き気がしてきました。同じ女性として、絶対に許しては
いけない行為だと思う。しかし、こんないじめの描写が出来る湊さんって、ある意味
すごいと思うなぁ。こういういじめ行為は、女性作家ならではの発想じゃないかな。
ここまで生理的嫌悪を引き起こすいじめ描写もなかなかないような。実里の母親にも
大概ムカつきましたけどね。この親にしてこの子ありとはまさにこのことだな、と
思いました。
数少ないまともな人間だと思えていた、篠宮先生の過去には驚きました。こんな
辛い過去があったなんて。なんか、本書に出て来る重要人物は、みんな親に恵まれない
人ばかりですね。親子の縁を切りたくなるような人物ばかり出て来て、辟易しました。
ビデオの件は、完全に危機管理が甘かった本人にも問題があるとは思うけど、こういう
精神状態に付け込む相手にヘドが出そうでした。その後摘発されてればいいのだけど。
それでも、彼女には明るい未来が待っていそうなので、ほっとしました。
章子と亜里沙に届いた未来の手紙のからくりには、なるほど、と思わされましたね。
何かしらの仕掛けがあるとは思いましたが。こういう善意の手紙が子供の頃の彼女
たちに届けられたことが、一番の救いだったんじゃないのかな。
とてもよく出来ていると思いました。構成が絶妙ですね。章子と亜里沙が二人で
いつかドリームランドに行ける日が来ますようにと願わずにいられません。
湊さんらしいイヤミスではありますが、どんなに酷いどん底の人生であっても、逞しく生き
続けていけば、未来への自分へと繋がっていけると思える作品でもありました。
力作です。