ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

砥上裕將「線は、僕を描く」(講談社)

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本屋大賞候補にもなり、世間でとても評価が高かったので読むのを楽しみにしていた

作品。心を閉ざした青年が、水墨画の世界に足を踏み入れ、絵を描くことで自分を

取り戻して行くお話。

えぇと。うーーーーん。なんだろう、確かに評価されるのはわからなくない。けど。

水墨画の繊細の世界観を見事に描き出していると思うし、水墨画の奥深さに目覚めた

主人公の、複雑に揺れ動く心模様を、優しく美しい筆致で見事に描き出している・・・

というのは間違いないと思う・・・けど、けどもさ。この話、読んでて面白いかな?

というか、私にはあんまり、正直にいって、全然面白くなかった。だって、描写の

ほとんどが水墨画のことについてだし、主人公の霜介は両親亡くして心を閉ざして

いて、感情らしい感情があまりない青年だから、内面描写がどこまでも内向きだし。

なんか、全然ドラマが起こらないんですよ。ずっと、水墨画の繊細で緻密な描写

が続いていて。それを読むのが楽しい人もいるとは思うけど。水墨画に関する

リアルな描写はさすがだと思うし、水墨画自体には興味を惹かれたのですけどね。

作者は実際水墨画の絵師さんなのだそうで、だから描写がリアルなのは当然なの

かもしれませんが。でも、物語としては、どうなんだろう。特に大した盛り上がりも

なく、終わってしまった感じ。霜介と美少女絵師千瑛の水墨画対決の結果は最初から

予想出来た通りではあったし。霜介が水墨画を通して、自分の心の檻から出て来る

ラストは感動的ではあったけれど、巷の大絶賛ほどには、私には心に響かなかったな。

もうちょっと、ドラマ性をもたせて欲しかったなぁ。なんか、ずっと単調なんだもの。

脇役キャラもそれぞれに個性的なのだけれど、上手くその個性が生かされて

いるとも言い難いような。霜介と湖山先生の師弟関係は良かったと思いますが。

文章も改行が少ない水墨画の描写が続くから、途中で読むの疲れて来ちゃったし。

水墨画絵師から作家になられた方みたいだから、とにかく水墨画の魅力を伝える

ことを第一目的に書かれている感じなのかな。何にびっくりしたって、これが

メフィスト賞受賞作ってことですよ。まぁ、メフィスト賞も過去いろんなタイプの

作品を受賞させてきたから、こういうミステリ要素皆無の作品が受賞したって

おかしくはないんだろうけど(SFとかバイオレンスとかいろいろあったしね)。

でもでも、やっぱりせっかくメフィスト賞に応募したのだったら、もう少しミステリ

要素とか入れて欲しかったよなぁ。そこが入っていたら、全然評価は違っていたかも

しれない。それは私がミステリ読みだからであって、一般読者は十分この作品を

評価しているのだから、これはあくまでも私個人の意見ってだけですけど。せめて

もうちょっと、千瑛との恋愛要素でもあれば・・・と思ってしまう私は、少女マンガ

の読みすぎでしょうか・・・。霜介の方は憎からず想ってそうではあるけど、

この二人じゃ、永遠に恋愛関係にはならなそうだよなー・・・。

繊細で細密な水墨画の奥深さはとても感じられるお話ではありました。でも、

それだけのお話って感じもしたな。なんでこれ、こんなに絶賛されたんだろ。

リーダビリティが全然ないから(個人的意見です)、とにかく読むのに時間が

かかってしまった。5日くらいはかかったんじゃないだろうか。

そんなに厚い本じゃないのに。だって、全然先が気にならないんだもん。

アマゾン評価も、のきなみ絶賛だったから、私の感性が変なんでしょうね・・・

・・・うぅ(涙)。

思わぬ作品で黒べるが降臨してしまった。あちゃー。