ミステリ読書録

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井上真偽/「その可能性はすでに考えた」/講談社ノベルス刊

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井上真偽さんの「その可能性はすでに考えた」。

かつて、カルト宗教団体が首を斬り落とす集団自殺を行った。その十数年後、唯一の生き残りの少女は
事件の謎を解くために、青髪の探偵・上笠丞と相棒のフーリンのもとを訪れる。彼女の中に眠る、
不可思議な記憶。それは、ともに暮らした少年が首を斬り落とされながらも、少女の命を守るため、
彼女を抱きかかえ運んだ、というものだった。首なし聖人の伝説を彷彿とさせる、その奇蹟の
正体とは…!?探偵は、奇蹟がこの世に存在することを証明するため、すべてのトリックが
不成立であることを立証する!!(紹介文抜粋)


昨年末に出たこのミスで存在を知り、気になっていたところ、お仲間さんが読まれてかなりの
高評価だったので、読むのを楽しみにしていた作品。なかなか図書館に入荷してくれずやきもき
しましたが、目出度く入荷してほっ。どなたかがリクエストしてくれたのでしょうねー。
ありがたや。
著者プロフィールで初めて知ったのですが、メフィスト賞デビューだった方なのですね。
そちらの作品は残念ながら図書館未入荷で読める見通しが立たず残念。本作は受賞後
二作目に当たるようです。
さてさて、肝心の内容ですが。なるほど、話題になるのも頷けるものがありました。
かなり、変わった切り口の作品。こういうミステリは今までに読んだことがないなぁ
とは、思いました。
・・・が、うーん。個人的には、それほどハマらなかったかも。とにかく、設定に無理が
多いんだもの。あと、途中やたらと出て来る中国語が、正直読んでて鬱陶しかった。
フーリンとかリーシ―とか中国名の漢字表記を、次からカタカナで表記してくれたのは
有り難かったけれど、できたら、アダ名(老仏爺(ラオフォイェ)とか、西王母(シーワンムー)
とか)の方もカタカナ表記か定期的にルビ振るとかして欲しかったなぁ。一度出て来ても、
すぐに忘れちゃうんだもの(アホ^^;)。メインに出て来る人物が中国人なんだから仕方がない
とはいえ、非常に読みにくかったです。文章自体は読みづらいとかは全然なかったのですが。
あと、すべての可能性を考え、それが否定されたらそれは『奇蹟』っていう理論も
ちょっと首を傾げてしまった。そんな、人間が考えうる可能性をすべて一人で導き
出せる筈がない気がするんですが・・・って、まぁ、そこをツッコんでしまうと、この
作品自体の存在意義がなくなっちゃうんで、そこはまぁ、そういうものだと認めて
読むしかないのでしょうが。
でも、そういうコンセプトであるのであれば、可能性のモデルはもう少したくさん
あった方が説得力があったのじゃないかなぁ。一つの可能性を提示するのに、わざわざ
新しいキャラを登場させたりするから、尺が足りなくなるのでは・・・。探偵が考えた
何百だか何千だかの可能性のいくつかでも例にあげていればもう少し印象が変わったかも。
ただ、途中に出て来るアクロバティックな推理の数々は、なかなかに面白かったです。
んなバカな、とツッコミを入れたくなること必死ではありますが(笑)。こういう
バカっぽい強引なトリック好きなんですよ。初期の御手洗シリーズみたいなやつね。
なんか、いろんな人物が同じ事件についてあーでもない、こーでもないって推理を
次々と開帳し、それを探偵が一つ一つ否定して行くものだから、終盤何が何やらって
感じになったんですが、最後に探偵によって明かされる真実らしきものを読むと、
意外と事件はシンプルな構造だったんだな、とちょっと拍子抜け。まぁ、なるほど、とは
思える真相ではあったので、納得はしましたけどね。
ただ、諸悪の根源である教祖の行動にはちょっと納得がいかなかったなぁ。あんなに
残虐な行動を取って、そういう真相に導かれるという所に、どうにも違和感が拭えない。
まぁ、あくまでも探偵が推理した真実らしきもの、というだけであるので、実際のところは
教祖がどういう心境だったのかはわからないのですが。
でも、一番拍子抜けしたのは、イタリアの黒幕との推理合戦の結末。えぇっ、そんな簡単に
納得しちゃうの!?それだけで母親のことも奇蹟って認めちゃうの!?とズッコケました・・・
それまでの長い確執は何だったんだよ・・・っていう・・・。そこはもうちょっと、
引っ張っても良かったのでは。どうせシリーズ化見込んでいるのだろうし。
フーリンとの関係も、もうちょっときちんと書いて欲しかった。何で借金があんなに
あるのかよくわからなかったし。
あと、探偵、罠にはまり過ぎ。もうちょっと危機管理しろよ。何回死にそうになってるんだ^^;
とツッコミを入れたくなりました(苦笑)。

まぁ、かなり実験的な作品というか、意欲作なのは間違いないと思います。また新しい
切り口のミステリが出て来たなぁという感じ。
自分としては、評価したい部分とちょっと入っていけない部分、半々って感じ。
ミステリ的には面白かったけど、作風的にはちょっと合わないかな、という印象でしょうか。
とりあえず、メフィスト賞の作品も読んでみたいですね。それか、次に出る新作か。
今後読み続けるかは、次回持越しかな。