ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

光文社文庫編集部編「Jミステリー2022 SPRING」(光文社文庫)

執筆陣がとても豪華なので借りてみたアンソロジー。実力派ばかりなので、どれも

水準以上の面白さはありました。ラストの知念さんのだけは、自作のシリーズもの

に続く、っていう終わり方で、自作の宣伝みたいな作品だったので、何だかなー

とは思いましたけど。

シリーズものといえば、東野さんの作品もそうなのだけど(途中まで気づかなかった

けど、ある人物が出て来て、この登場人物絶対知ってるな、と途中で気づいた)、

東野さんのは普通に短編として成立していて単独で楽しめるから問題なし。

それぞれに趣向の違うミステリ作品なので、バラエティに富んでいて面白かった

ですね。

 

では、各作品の感想を。

 

東野圭吾『リノベの女』

先に述べたように、キャラの強い主人公の叔父さんが出て来て、シリーズものだと

気づきました。『ブラック・ショーマンと名もなき町の殺人』の続編になりますね。

あの作品読んだ時、シリーズ化しても良さそうだなーと思ったので、またあの

マジシャンの叔父さんに再会出来たのは嬉しかったですね。東野さんお気に入りの

キャラっぽいなぁと思ったんですよね。お金にがめついキャラ設定、今回は特に

出て来なかったし(笑)。普通に面白かったけど、いくら頼まれたからって、

あんな風に簡単にそれまでの生活捨てられるものなのかなぁと、ちょっと首を傾げ

たくはなりましたね。

 

今村昌弘『ある部屋にて』

ストーカーしている女性の部屋に押しかけて口論になり、その女性を殺してしまった

男。部屋から出ようとしたところに、女性の知り合いという男性が訪れ、ピンチに

陥ってしまう。女性の兄のふりをしてなんとかこの局面を乗りきろうとするが――。

これは途中までありきたりな展開だなぁと思って読んでいたのだけど、そこは

今村さん。ラストの反転はお見事!でしたね。まさかの結末でした。オチの黒さも

含めて、作品の完成度が高いと思いました。

 

芦沢央『立体パズル』

幼稚園の息子の友達の住んでいる家は、世間を震撼とさせている殺人鬼が昔住んで

いた家で、最近犯人がその家の近くで目撃されたらしい――その噂が幼稚園関係者

たちの間にまたたく間に広がり、息子の友達一家は自宅にいられなくなって、母親の

実家に避難してしまった。しかし、後日それがガセだったと判明して――。

これはなんか、実際にもありえそうな話。殺人鬼を生んだ家・・・確かに住みたくは

ないなぁ。噂を流した人物にゾワっ。

 

青柳碧人『叶えよ、アフリカオニネズミ』

ネズミを使って地雷撤去するって方法は、実際にあるものなんでしょうか。画期的

なのかもしれないけど、残酷なような気もするし。機械的トリックは、図が書いて

あったのでなんとなく想像は出来ましたけど、こんなに上手く行くんですかねぇ。

殺人の道具に使われたネズミちゃんが可哀想になりました。由赤丸警部のキャラが

なかなか立っていて面白かった。ラストの所長への言葉や配慮も温かかったし。

ちょっと青柳さんっぽくないキャラのような。どっかでまた登場するかな?

 

織守きょうや『目撃者』

陽人が出張明けに予定より早く自宅に戻ると、妻がリビングの床に倒れて死んでいた。

何者かに殺されたらしい。幼い息子を捜すと、リビングとひとつづきになっている

和室で、すやすやと寝息を立てていた。安堵した陽人だが、一体妻は誰に殺された

のか。警察は第一発見者である陽人を疑っているようだが――。

主人公である陽人が冤罪の罪で捕まってしまうのか、はらはらしました。幼い

目撃者の『おとうさん』という言葉の意味は、思っていた通りでした。殺された

妻も陽人も、裏でやってることは同じだったという。一番の被害者は幼い子ども

かもしれません。

 

知念実希人『黒猫と薔薇の折り紙』

死神シリーズ。私は一作目の犬のやつしか読んでないので、これはその後のお話

の続きみたいですね。郷里にいる恋人の美穂を迎えに行く為、必死で料理人の修行を

積んだ大河。しかし、ようやく郷里で自分の店が出せるまでに成長し、彼女を

迎えに行ったところ、彼女の裏切りを目撃してしまい――。

美穂の言動の真意は、大抵の人が気がつけるんじゃないのかな。ありきたりといえば

ありきたりな話とも云えるかなぁ。そこに猫に憑依した死神が出て来るって付加価値

はありますが。ラストまで読んで、え、ここで終わり!?と思っていたら、この

作品自体が、『死神と天使の円舞曲』という作品の第一章だったそうで。この

続きが読みたかったら、そっちを読んでねってことらしい。続きが気になるので、

そのうち読みたいと思います(まんまと乗せられている!w)。