倉知さん新刊。警察庁所属の新人刑事木島が、民間の探偵たちの知恵を借りて、
ミステリ小説に出て来るような特殊な事件を解決する新シリーズ。
内勤希望で気楽なデスクワーク生活が出来る!と意気揚々と警察庁に入庁した木島。
しかし、突然上司から言い渡された職場は、警察内でも他部署から厄介者扱いされて
いる、通称『探偵課』。ミステリ小説みたいな厄介な難事件が起きた時、民間の
探偵の力を借りて事件を解決する警察庁 特殊例外事案専従捜査課、通称『特専課』
だ。そこで、探偵と現地の捜査陣との橋渡し役を担う『随伴官』として配属される
ことになった木島。そんな難事件がそうそう起こる訳がないと思っていた木島
だったが、着任して三日目にして、事件を知らせるメールが届く。資産家の主人が、
強風の吹き荒れる夜に屋敷の自室で射殺されたという。随伴官として現場に臨場した
木島は、そこで初めて探偵の勒恩寺と出会う。現場は、前日の強風によって建物と
並行して桜の大木が倒れていた。その桜の大木によって、現場は中途半端な密室と
なっていたのだ――(『古典的にして中途半端な密室』)。
一作ごとに担当する探偵役が変わるのですが、なぜか二作目に出て来た影の薄い
公務員探偵の作馬も、三作目に出て来た腹黒い美少年探偵の志我も、事件を解決せずに
途中で帰ってしまい、結局最終的に事件を解決するのは三作とも一作目に出て来た
勒恩寺という。事件を解決せずに帰っちゃう探偵って何だよ、とツッコミたく
なりましたが(苦笑)。特に、二作目の作馬は、一体何の為に出て来たんだ?って
くらい何もしてなかった(笑)。クセの強い探偵が毎回出て来るって設定を強調
させたかったのかもしれないですが、正直、作馬と志我の二人はいなくても
良かったような・・・と思ってしまった。最初から勒恩寺が出て来た方がすっきり
読ませられたんじゃないのかなぁ。まぁ、探偵役も中途半端ってところがユーモア
としての読ませ所の一つでもあるのかもしれませんけれど。
ただ、ミステリとしてはさすがの出来だと思います。中途半端な密室、あやふやな
怪盗の予告状、見立てっぽいけど完全じゃない見立て殺人。どれも、中途半端
だったことの必然性を勒恩寺によって論理的に解明されて、すっきりしました。
語り手にして随伴官の木島のキャラは、刑事としては覇気もないしやる気も感じ
られず、いまいち好感は持てませでしたが、個性的な探偵たちに毎回振り回されて
ちょっと気の毒でした。そもそもデスクワーク希望でしたしね・・・何の因果で
あんな特殊な課に配属させられちゃったのやら。
中編なので、途中若干中だるみ感もありましたが(説明が多いせいかも)、探偵役
の勒恩寺が論理的に真実を突き詰めて行く過程はとても面白かったです。三話目の、
現場が見立て殺人っぽくなった過程も、なるほどー!と膝を叩きたくなりましたね。
凶器ではない斧にうっすら血痕が残ってた理由も、説明されて、そういうことか、
と思わされました。伏線がきれいに回収される辺りは、さすが倉知さんって感じ
でした。
エピローグで、木島の苦難はまだまだ続きそうなことがわかって、気の毒やら
嬉しいやら(笑)。雑な難事件、今後も楽しませてもらえそうで良かったです。