ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

小西マサテル「名探偵のままでいて」(宝島社)

第21回『このミステリーがすごい!』大賞受賞作。王様のブランチで取り上げ

られていて、興味を惹かれたので予約してありました。基本、このミス系作品とは

相性が悪いのであまり手に取ることはないのですが。予約してから回って来るまで

かなり時間がかかったので、なぜ自分がこれを面白そうだと思ったのかすっかり

忘れていたのですが、認知症の祖父が探偵役という設定に惹かれたことを、読み

始めてなんとなく思い出しました。

主人公の楓は、小学校の教師。元小学校教師で聡明な祖父が大好きだったが、七十一

歳の現在、レビー小体型認知症という、幻視や記憶障害を伴う認知症にかかり、

介護が必要な状態になっていた。楓は、仕事の傍ら、頻繁に祖父の家を訪れては

症状の進行に一喜一憂する日々を過ごしていた。ある日、楓はかつての聡明な祖父

を取り戻して欲しい一心で、祖父に自分の周りで起きた不可思議な謎を語って

聞かせた。すると祖父は一言、『楓、煙草を一本くれないか』とせがんだ。その

一言を皮切りに、みるみる祖父の目が輝きだし、灰色の脳細胞が目まぐるしく

機能し始めた――。

認知症を患う祖父が、孫娘の周りで起きた不思議な謎を、話を聞いただけで解決

する、安楽椅子探偵ミステリー。認知症の患者がときおり見せる知識のきらめき、

みたいな瞬間が上手に描かれていて、なかなか小技の効いた作品だなぁという

感想。第二章の居酒屋の殺人の推理なんかは、かなり強引で説得力に欠けるような

印象もありましたが、全体通した楓のストーカー問題への伏線の貼り方なども

巧みで、構成の上手さに唸らされました。何より、安楽椅子探偵役の祖父のキャラ

クターが良いですね。ダンディで素敵!ドラマ化するなら渡部篤郎さん辺りがいい

かなぁ。ちょっと若すぎるか。寺尾聰さんとかいいかも。

ただ、楓を巡る三角関係のひとり、劇団員の四季のキャラがいまいち好きになれな

かったです。初対面の楓に対する攻撃的な言葉の数々には、正直ドン引きしました。

楓が、なぜもっと怒らないのか不思議でした。後から考えたら、四季は四季で

楓に対していろいろ余裕がなかったせいだというのもわかるのですが、それに

しても、あの態度はありえない。その後少しづつ彼のことがわかって行くにつれて、

印象は変わって行ったものの、初めの印象が悪すぎて、最後までそれを引きずって

しまったところはありました。少女漫画的な展開を求めるのならば、初対面の

印象の悪い四季の方が楓の相手役としては意外性があって面白いのかもしれません

が・・・。最初から最後まで『いい人』である岩田の方が、個人的には楓は

幸せになれる気がしますね。職業も性格も正反対のふたり。まぁ、楓がどちらを

選ぶのかは、最後まで明かされていないので(『好きな人が出来た』としか作中

では書かれていない)、続編が出ない限りは読者の選択に委ねられてる感じで

しょうか。続編を想定して書かれている感じもしなくはないけれど。

楓のストーカーの正体に関しては、素直に驚かされましたね。たくさん伏線は

張られていたのですけれどねぇ。終盤になって、やっと気がついたって感じ(

真相が明かされる前ではあったので、やっぱりそうか、とは思いましたけど)。

レビー小体型認知症という認知症があることを始めて知りました。珍しい症例

らしいですが。記憶障害はともかく、幻覚が見えるというのは、介護する人側

にとっては厄介ですね。当人には実際『視えて』いるわけですから。現実と非現実

がわからなくなって混乱しそう。こういう作品を読まなければ、ずっと知らずに

いたかもしれない。勉強になりました。

大賞を獲るだけあって、なかなか面白かったです。続編あるかなぁ。