ミステリ読書録

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北山猛邦/「密室から黒猫を取り出す方法 名探偵音野順の事件簿」/東京創元社刊

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北山猛邦さんの「密室から黒猫を取り出す方法 名探偵音野順の事件簿」。

 

とあるホテルの一室。憎い上司を殺した後、自ら考案した密室を作って自殺に
見せかける計画を立てた田野。あとは扉を閉めて密室を完成させれば完了という
局面まで来て、一匹の猫が室内に入り込んでしまう。上司は猫アレルギーで、
猫がいる場面で自殺をするなんてあり得ないことに誰かが気付いてしまったら
・・・。この密室からどうやって黒猫を取り出せばいいのか――(「密室から黒猫を
取り出す方法」)。史上最高に気弱な名探偵音野順が解決する5つの事件を収録。


気弱探偵・音野が活躍するシリーズ二作目。結構人気があるみたいで、回って
来るのに時間がかかりました(蔵書一冊だし)。二作目もミステリとしては
ツッコミ所が満載でしたが、キャラ同士の軽妙な会話が可笑しく、前作からの
キャラも活躍し、新キャラなども登場して、一作ごとに趣向を凝らしてあって
バラエティに富んだ作品集となっていて楽しめました。
相変わらず名探偵らしくなく、おどおどびくびくしている音野のキャラは笑えます。
今回も岩飛警部にいじられまくり、白瀬にお尻を叩かれながら戦々恐々と推理を
開帳する姿は、寒さに震えるチワワかと思うくらい、哀れな気持ちを誘います(笑)。
うーん、ほんとに、いじめ甲斐のある青年だ(笑)。岩飛警部がいじりたくなる
気持ちはよくわかるなぁ。白瀬も、擁護しているようで、何げに突き落としたり
するところがある気がするんですが。わが子を崖に突き落とす虎のような気持ち
なんでしょうか(苦笑)。正直トリックは到底実現可能とは思われないものばかり
ですが、バカミス寸前のトンデモトリックは、発想の面白さだけでも評価したいな、
と思えました。無理だろ、とツッコミたくなるんですけどね(苦笑)。



以下、各短編の感想。

 

『密室から黒猫を取り出す方法』
倒叙形式になっていて、犯人は最初から明かされているのですが、タイトルの
ように、犯人が密室を作った際に入り込んでしまった黒猫をいかにして外に出すのか、
という点が最大のポイント。ただ、実際この事態に直面した犯人は最後にはこの
難題をあっさり放棄してしまうのでちょっと肩透かしだったのですが。でも、
最終的にはちゃんと黒猫を密室から取り出す方法が明かされます。絶対無理だろ
・・・とツッコミたくなりましたけどね^^;;

 

『人喰いテレビ』
人がテレビに食べられてしまった!?タイトル通りの謎ですが、その真相には
思わぬ展開が。これも、一目そのテレビを見たら一目瞭然なんじゃないの、と
思ったのですが、この部屋に泊まる人間たちが特殊な人間ばかりだからこういう
無理矢理な仕掛けも通用するんだろうな、と思いました。なかなか良く考えられて
います。

 

『音楽は凶器じゃない』
これのトリックにはとにかく目が点。放課後、誰もいなくなった状態ならばまだ納得
出来るけど、現場の音楽室から目の届く範囲に人がいる環境でこんな犯罪を犯すのは
リスクが大きすぎるだろ、とツッコミを入れたくなりました(特に後処理が)。
ただ、凶器自体に関しては完全に盲点をついたもので、発想の面白さに感心しました。
でも、動機は弱すぎじゃないかなぁ。そんなことで殺人まで犯すか?そんなリスクを
犯すよりも、もっといくらでも方法はある気がするけどねぇ。女子高生の蘭ちゃんは
前作で出て来たらしいのですが、全く覚えていませんでした・・・読んだばっかりの
筈なのに~(この短期間で忘れられる私って、ある意味すごいとおもうよ・・・)。

 

『停電から夜明けまで』
これも状況を頭に思い描くとめちゃくちゃツッコミたくなるのだけど、最後のオチが
見事に決まって全部良しになりました(笑)。音野兄再登場で、弟よりもよっぽど
存在感があります(苦笑)。でも、ラストは兄と弟の見事な連携プレー(っていうか、
弟は何もしてないようなものだけど^^;)で犯人をやり込めてくれて痛快でした。
ただ、犯人兄弟も殺人を企んだことは悪いことだけど、どこか憎めないキャラで、
音野たちにやり込められた後の身のふりが心配になりました。まぁ、この家から
離れた方がこの二人の場合は生き生きと生きられるでしょうから、彼らの為には
良かったのかもしれませんね。これが一番作品としては好きですね。

 

『クローズド・キャンドル』
新キャラの琴宮探偵、最初はあまりの胡散臭さに絶対詐欺師だろうと思っていたの
だけど、本当にそのまんまの名探偵キャラでずっこけました(苦笑)。でも、
三千万はどう考えてもふっかけすぎでしょう。アンタはブラック・ジャックか^^;
トリックは図があったのだけど、今ひとつピンと来なかったなぁ。わかるようで、
わからない、みたいな。謎の提示の仕方は面白いと思うのだけど、他の作品に比べて
真相は地味だったかな。前作で重要な役割を果たしたマクシミリアンが音野の部屋に
送られてきていたのにウケました(笑)。それを律儀に組み立てる白瀬が好きだなぁ
(完全に音野への嫌がらせになってるけど(笑))。トースターでも笑わせてもらい
ました。ちょこちょこ前のネタをひっぱって、小さな笑いを取るところが好きだな、
このシリーズ(笑)。琴宮探偵は今後もまた再登場しそうですね。




うん。今回も随所でぷぷぷ、と吹き出せるポイントが散りばめられていて、楽しく読めました。
ツッコミたい箇所も同じくらい満載ではありましたけど(苦笑)。
ラストで出て来たあの女の子、もしかして今後音野と絡んできたりするのかな?(同類相憐れむ、
でお互いに好感持ってそうな気が・・・)
もう一人の方が白瀬と繋がりそうな気もするし。今後の展開が楽しみです。