ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

今野敏「署長シンドローム」(講談社)

隠蔽捜査シリーズのスピンオフ。竜崎が去った後の大森署にやってきた、新しい

署長を巡る物語。この間読んだ隠蔽捜査シリーズの最新刊で初登場した、大森署

の新署長・藍本小百合。その類まれなる美貌で、見る者を虜にしてしまう特殊能力

を持つ。そんな大森署に持ち込まれたのは、羽田沖の海上で銃器と麻薬の密輸の

取り引きが行われるという情報。テロの可能性も否定出来ないと言う。国中を

巻き込む騒ぎに発展しかねない大きな事件の中心に立たされてしまった大森署。

この危機を藍本新署長はどう切り抜けるのか――。

扱う事件の重大さに対して、藍本署長が出て来た時の弛緩した空気感のギャップが

すごい。どんな事件を前にしても態度を変えることなく対応するところは、竜崎

並に度胸が据わっていると言うべきなのか・・・どうも、個人的には何も考えて

ないからのような気がしないでもなかったのですが^^;緊迫した状況なのに、

藍本署長を前にした時の重役たちのデレデレした態度にも呆れましたけど。

藍本署長に会う為だけに大森署にやって来たり、用もないのに署長室に入り浸ったり。

こんな上司いたらやだよー。捜査情報も藍本署長ならと、べらべらしゃべりまくるし。

容姿だけでこれだけ得してるキャラってのも、今どきなかなかないんじゃない?

コンプラに引っかからないのかな。かなり一部の人から叩かれそうな、攻めた設定

だなぁと思いました。

最後、核爆弾まで出て来たのには、さすがに面食らわされました。いやいやいや、

大問題でしょう!大森署で対処出来るレベルの問題じゃないってば!と、何度も

読みながらツッコミを入れたくなってしまった。でも、そんな大問題を前にしても、

慌てず飄々としている藍本署長には驚かされました。それまで捜査会議とかほとんど

副署長の貝沼に任せて来たのに、ここぞという時の責任は自分で取る!と断言

したところはかっこよかったです。何も考えてないようで、いざという時は頼りに

なるタイプ・・・?普段は何考えてるかよくわからない人ですけどね。竜崎とは

違ったタイプの大物かもしれない。

そんな藍本署長に振り回される副署長の貝沼が少し気の毒だったけど(いろんな

仕事を押し付けられまくってた)、貝沼自身も、麻取の黒沢と馬渕課長の言い合いを

面白おかしく見物している人の悪いところがあったりするから侮れない。言い合いが

激しくなればなるほどゾクゾクするとか喜んでるんだから、相当変わってる(苦笑)。

相変わらず戸高は個人プレーが激しかったけど、何度もファインプレーもあった

ので、やはり出来る捜査員なのは間違いないですね。新人の山田も、普段ぼーっと

しててやる気がなさそうだけど、彼にしか出来ない特殊能力を持っているので、

これからたくさん活躍してくれそうですね。刑事にとって、これほど役に立つ

能力もないんじゃないでしょうかね。

途中ちらっと竜崎が登場したのは嬉しかった。もし竜崎が署長だったら、今回の

事件をどう捌いたのかなーとか想像してしまった。きっとテロだろうが核爆弾

だろうが、藍本署長と同じように淡々とやるべきことをやるんだろうけどね。