ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

滝田務雄「田舎の刑事の好敵手」/柳広司「ラスト・ワルツ」

どうもこんばんは。
早い方はもうGWに入ってらっしゃるのでしょうか。
私は前半は飛び石ですが、後半は5連休。久々の長期連休で嬉しいな~。

今回も二冊読了。
一冊づつ感想をば。

滝田務雄「田舎の刑事の好敵手」(東京創元社
田舎の刑事シリーズ第三弾。待ってました~!って感じ。前二作は短篇集
でしたが、今回は初の長編です。
我らが黒川鈴木刑事、今回も随所で笑いを提供してくれました。
はー、読んでて何度吹き出したことか。本人真面目にやってるから、余計に
可笑しいんですよねぇ。
今回は、黒川の高校時代のライバルにして、現県警本部の首席監察官である
遠山警視正が初登場。ライバルっていうくらいだから、最初は黒川をバカに
しに来た鼻持ちならない奴なのかと思ったのですが、全然そうではなく、
むしろかなりのいいヤツ。そして、黒川のことをかなり評価していて、
今回黒川の勤める所轄署にやって来たのも、表向きは視察の為ですが、
内心では黒川に会えるからというのも少なからずあったようで。
まぁ、ある困った性癖のせいで、かえって捜査を攪乱するような面倒な
人間ではあるのですが、基本的には好感持てるキャラでした。黒川も、
その困った性癖以外は彼に一目置いているようですし。二人の関係は結構
好きでした。
今回は、黒川の奥さんがバイトを始めた小劇団の事務所が荒らされた所から
事件が始まります。そこからさらに公民館で劇団員の墜落事件が起き、
事件は混迷し始めます。事件を調べる所轄署の黒川たちの傍らで、捜査に
首を突っ込む遠山警視正とお目付け役の七宝亜矢警部。その上、事件の
関係者として黒川の奥さんまで捜査に乗り出し始め、黒川の受難が続いて行く
・・・というのが大筋。
相割らず奥さんがいい味出してますねぇ。今回は彼女の黒さがあまり出て
来なかったのが残念ではありましたが(苦笑)。口では黒川に厳しい彼女
ですが、内心で彼の推理力を高く評価しているのがわかって嬉しかった
です。
普段の残念な言動に反して、いざ事件を推理する段階になると、抜群の
推理力を発揮する黒川。終盤は、悔しいけれどなんだかかっこ良く思えました。
でも、冒頭、ライバルに対する見栄から庭の雑草でハーブティーを淹れようと
したところにはずっこけましたけど・・・見栄を張るにしても、もうちょっと
違うやり方があるだろうに^^;そして、その挙句に窓から落ちて入院騒ぎ
だし(苦笑)。黒川を担当した医者とのやり取りが可笑しかったです。
ミステリ的には、非情にオーソドックスなトリック。久しぶりに○○を
使ったトリックを読んだなぁ。犯人は完全に意表をつかれました。まさかの
伏兵。黒川が破壊したアレが伏線になっていたとはねぇ。動機はちょっと
承服しかねるところもありましたけどね。
ミステリ云々はともかく(笑)、キャラ同士のコミカルなやり取りだけでも
十分楽しめました。今回、奥さんが大活躍だったのも嬉しかったな。
さすが、黒川の奥さん!って感じでした。
大好きなこのシリーズ、更なる続編が出ることを願います。


柳広司「ラスト・ワルツ」(角川書店
『魔王』と呼ばれる結城中佐が旧日本陸軍内に設置したスパイ養成組織”D機関”
のスパイたちが暗躍するシリーズ第四弾。
今回は三作の中編が収められています。第四弾ともなると、そろそろネタ切れ
かなぁと思いきや、いやいや。同じスパイの話でも、これだけバラエティ
に富んだ話が考えられるのだから、柳さんってスゴイ人だなーと思いますね。
しかも、どのお話も抜群にかっこいい!二作目は若かりし頃のあのお方が出て来て
ニンマリ。昔から素敵だったんですねぇ。ご令嬢が一目で恋に落ちるのも
頷けてしまいますね。うふふ。
”D機関”の『死ぬな、殺すな』の美学が徹底して貫かれているところが
いいですよね。不穏な空気が流れがちなスパイのお話なのに、安心して読める
ところがこのシリーズの美点の一つだと思います。

では、軽く一作づつ感想を(一部ネタバレ気味なのでご注意を)。

『アジア・エクスプレス』
満鉄特急<あじあ>内で人が殺された。被害者は、瀬戸が情報を
得る予定のロシア人だった。おそらく犯人はロシアの諜報機関<スメルシュ>。
次の停車駅まで二時間。瀬戸は<スメルシュ>との対決に勝てるのか。

相手の裏をかいた瀬戸の手腕に脱帽。さすが、”D機関”でもまれた人間は、
先の先の先まで読んで次の行動を決めるんですねぇ。
子供に出したなぞなぞの答えになるほど、と思いました。これ、平和の象徴でも
あるけれど、機密情報を伝える手っ取り早い手段でもあるんですね。

『舞踏会の夜』
陸軍中将の妻・顕子は、アメリカ大使館で開かれた仮面舞踏会で、二十年以上前に
出会ったある男のことを思い出していた。侯爵家に生まれ窮屈な思いで過ごす
ことに嫌気がさした彼女は、14歳の秋を機に家出を繰り返し、ダンスホール
遊び歩いていた。ある日、ダンスホールの帰りに不良たちに絡まれた彼女を颯爽と
助け出したのが、あの男だった。別れの際に、いつか一緒にダンスを踊ることを
約束した。そして、今日、再びあの男が顕子の目の前に――。

顕子を助けたのってもしかして?と思いながら読んでいたのですが、その通り
でしたね。二十年経って顕子の前に現れ、彼女との約束を果たしつつ、きちんと
本来の目的を達成する、そのスマートな手法に惚れ惚れしました。かっこ良すぎ!
これって、少し若いころのお話なのかな?公の場に、その人本人が出て来る
のって珍しいですよね。顕子との約束を果たす為にわざわざ出張ったのかなぁ。
終盤の展開にはあっと言わせる意外性もあるし、あの方の若かりし頃も伺い知れるし、
ファンにとっては嬉しい一作でした。

ワルキューレ
ベルリンの映画撮影所に紛れ込んだスパイの雪村。ナチスの宣伝大使ゲッベルス
との対峙、映画館に出るという幽霊の正体とは――。

最後、雪村の正体にはびっくりしました。えっ、違うの!?って思いましたし、
えっそっちなの!?とも思いました(読んだ方にはわかって頂ける筈)。
全く表に出て来ず、最後の最後に出て来た人物が一番裏で活躍していたんですねぇ。
まさに、これぞ”D機関”というやり方ですね。わかってみれば、雪村のやり方に
違和感があるのも頷ける。ラストの雪村の運命も。”D機関”のスパイたちなら、
こんな不確実な方法ではなく、間違いなく確実に日本に帰れる方法を取る筈ですしね。
雪村がまた日本で映画を観ることが出来ていたら良いのですが・・・。


今回もスピード感溢れる筆致で、ぐいぐい読まされてしまいました。
面白かったです。

ところで、記事を書くにあたってネット検索していたら、柳さんご本人の写真が
載っているサイトがあったのですが・・・こ、こんなかっこいい人だったのか!!
超ナイスミドルじゃないですかぁ・・・!!渋い~。
映像化の時、柳さんご本人が結城中佐やれば良かったんじゃないかって思い
ましたよ(笑)。あー、びっくりした~。