ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

今野敏「探花 隠蔽捜査9」(新潮社)

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待望のシリーズ最新巻。今回も面白くて、あっという間に読み終わってしまった。

これの前に読んでいた有栖川さんの作品が、情景描写が多くて、結構読むのに時間

かかったので、余計に読みやすく感じたのかも。事件もスピーディに進むし、

竜崎はぐだぐだ余計なこと考えないし、ほんと何も考えずに楽しめる作品ですね。

まぁ、それだけに多少終盤、展開がご都合主義になっても致し方なし、という感じは

否めませんけれども。竜崎のブレない警察官としての矜持は、どれだけ出世しても

変わらないところがほんとに清々しい。今回初登場の、竜崎と伊丹の同期で入庁

試験1位だった八島は、わかりやすく権力にしがみつくタイプで、竜崎とは

正反対。ちなみに、伊丹はもっとわかりやすく八島タイプですけど(苦笑)。でも、

伊丹は、基本竜崎のことが大好きだからね。竜崎を蹴落として自分が上に立とう

とは思ってないんじゃないかなぁ。正当に競い合って、上に立ちたいタイプで

しょうか。竜崎は、そもそも積極的に上に立とうとは思ってない。でも、仕事

できるから、結局周りから評価されて、上に立たざるを得なくなるって感じ?

与えられた仕事は何を置いても真っ当しようとする姿勢がほんとかっこいいし、

好きだなぁ。竜崎と仕事する人は、みんな大抵最初はその強引なやり方に呆れ、

否定するんだけど、一緒に仕事するうちに、竜崎の真っ直ぐな姿勢に感化されて、

竜崎沼にはまってしまう(笑)。今回も、それで何人もが竜崎沼の中へ・・・(笑)。

今回は、被疑者が米軍関係か、という疑いがあったことで、米軍の担当捜査官

が捜査に合流。竜崎たちの捜査に、日米地位協定が立ちはだかることに。もっと

米軍との軋轢が生じていろいろこじれてくるのかな、と思ったんですが、そこは

割合早い段階で解決してしまって拍子抜け。ただ、米軍から派遣されたキジマ特別

捜査官は、乗りかかった船と言って、最後まで捜査に加わることに。キジマと

潮田さんはいいコンビでしたね。知らない間に友情が芽生えていたりしたのかも?

お互いに認めあってる感じがナイスでした。

事件と平行して、問題になったのが、ポーランドに留学している竜崎の息子・邦彦

が、現地で逮捕されたかもしれないという案件。長女の美紀の友人が、SNS上で

邦彦らしき人物が警察に逮捕されているらしき写真を発見し、美紀に知らせて

来たという。真相がわからないまま、邦彦とも連絡が取れない状態が続き、竜崎は

頭を抱えることに。邦彦、またしてもやらかして竜崎を足を引っ張るつもりか!?

と愕然としたのですけれど。まぁ、真相がわかって竜崎同様、胸を撫で下ろし

ました。そういえば、ポーランド留学の理由はソレでしたねぇ。忘れてたよ・・・。

邦彦の安否がわからず落ち着かない竜崎と対照的に、どっしり構えている冴子

さんが本当に頼もしかった。毎度ながら、冴子さんの良妻賢母ぶりには頭が下がる。

今回、読んでる間ずっと、竜崎が冴子さんの頼みをいつ遂行するのか、そればかりが

気になってました。残りページが少なくなるにつれて、まさか忘れてないよね!?

とやきもきしっぱなし。終盤、竜崎が何かを忘れている気がすると自問自答する

シーンでは、思い出して~!と叫んでました(笑)。ちゃんと思い出してくれて

良かったです。でも、せっかく遂行したのに、冴子さんの反応が・・・^^;;

竜崎が満足そうだから良かったけど、なんだかちょっと気の毒になってしまった。

もうちょっと労ってあげて欲しかったなぁ。

タイトルの『探花』って、てっきり冴子さんのお願いのことを指しているのだと

思ったら、中国の科挙試験の成績上位者のことだったとは。科挙の成績1位を

状元、2位を榜眼、3位を探花というのだそう。由来がそれぞれあるんだろうけど、

1位も2位も3位も、全然違う単語になるのね。不思議。それを入庁試験に

当てはめて、1位だった八島を状元、2位だった伊丹を榜眼、そして3位だった

竜崎が探花だ、と伊丹が言い出すシーンがあるのです。だから、タイトルは竜崎を

示していることになりますね。今回、竜崎はある花を探す人でもあるから、ピッタリ

当てはまりますね。良いタイトルだな、と思いました。

神奈川県警の刑事部長まで上り詰めた竜崎。最終的には、警視総監まで行くのかな~。

伊丹との一騎打ちになるのか。直接捜査に関わっていた頃の方が面白かった気も

するけど、指揮官になっても結局ちょいちょい口出ししちゃうから、どれだけ

上の立場になろうが、本質は変わらないままだろうな。