ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

藤野恵美「淀川八景」(文藝春秋)

f:id:belarbre820:20190901185505j:plain

大阪の淀川を舞台に描かれる八作からなる短編集。淀川って、東京だと
多摩川とか荒川みたいな存在なのかなーと思いました。京都だと鴨川とか

桂川とか?(全然違ってたらすみません・・・)
いろんな目的があって、人は川べりに集う。それぞれに、それぞれの
事情を抱えたドラマがあって、興味深く読みました。ただ、どれも短いせいか、

オチらしいオチがないので、この先が読みたいのに!って感じのお話ばかり

でした。文章も読みやすいので、さくさく読めちゃいました。

 

では、一作づつ感想を。

『あの橋の向こう』
東京で暮らす38歳デザイナーの女性が主人公。結婚して一人娘がいる
妹に会う為、大阪に帰って来た。二つの目的を持って――。
こういう父親がいたら、家庭を持つのが怖くなっても仕方がないかな、と
思いますね。ちなみに、私も子供の頃、末っ子だったので、橋の下で
拾って来た子だってことは言われたことがあります。でも、特に本気に
しなかったし、ここに出て来る妹みたいにショックを受けたりもしなかった
なぁ。

『さよならホームラン』
両親が再婚して義理の弟が出来た小学六年生の女の子が主人公。姉が出来たと
無邪気に喜んでいた弟が可愛らしかった。主人公だって、やっと新しい
家族を受け入れつつあったのに・・・あんな身勝手な理由でそれをぶち壊し
にする大人たちに怒りしか覚えなかったです。子供たちが、ただただ
大人に振り回されて可哀想だった。

『婚活バーベキュー』
33歳、会社員の独身女子が主人公。冒頭で七歳年下の既婚の後輩に婚活話を
振られ、マウンティングされるくだりは、上から目線の後輩にイラっと
しました。婚活バーベキューでのエピソードは、婚活あるある満載でしたね。
目ぼしい男性がいなかった主人公が、バーベキューの焼き奉行に徹する姿に、

なんかわかるなぁと思ってしまった(苦笑)。そのあと、せっかくちょっと

気になる男性と接することが出来たのに、結局その男性も女性フェロモン

出しまくり女に持って行かれちゃう辺りもね(苦笑)。その後の主人公

の婚活の続きが気になりました。

ポロロッカ
流産したばかりで精神的に不安定な妻を持つ夫が主人公。メンタルが弱って
いる妻の反対を押し切って、一泊二日で淀川沿いを歩く旅に出るというのが
もう、意味不明でした。それをやったからって、妻の痛みの何がわかると
言うんだ。単なる自己満足でしかないだろうし、そんなことをするより
もっとやることがあるだろ!ってツッコミたくなりました。ただまぁ、

主人公が奥さんに寄り添いたい気持ちはわかるし、こういう時に男性が

どうしたらいいのかわからないって気持ちも理解は出来ましたけどね。

『趣味は映画』
同級生に頼まれて、自主制作の映画に出ることになった高校生男子が主人公。
ちょっぴり恋愛要素も入って、青春そのものって感じのお話。鈍感な相手
に振り回される主人公がちょっと可哀想だった。これも、その後の展開が
気になるお話でした。

『黒い犬』
離婚して一人暮らしを始めた女性が主人公。亡くなった愛犬の骨壷を納骨
出来ずに、手元に置いている。淀川沿いを歩いていると、黒い野犬に出会う。
亡き愛犬を思い出して、その犬のことが放っておけなくなってしまう。
犬も家族の一員ですもんね。主人公が引きずるのも仕方がないだろうなと
思いました。黒い犬がラストで取った行動が痛快でした。ただ、このまま
野犬のままはまずいんだろうな、とは思いましたけどね。

自由の代償
地道にお金を貯めて、早期退職した独身の老年男性が主人公。買い物帰りに
淀川沿いを歩いている時、チェーンが壊れて困っていた女子高生に助けを
求められ、チェーンを直してあげると、その日からその女子高生が気にかかる
ようになってしまう。独身の老人が女子高生の言動にドギマギする様子が
滑稽でもあり、ちょっと可愛らしかった。ラストは、見たくない(知りたく
ない)ものを見てしまい落胆する主人公に対して、捨てる神あれば拾う神
ありって感じでくすりと出来ました。

『ザリガニ釣りの少年』
同級生のいじめに加担してしまい、後ろめたい気持ちを抱える小学生の
少年が主人公。いじめられっ子になんとかして、身を守り反撃する方法を
身につけて欲しいと助言をするのだが、当の本人にのほほんとかわされて
しまい――。
主人公はいじめが悪いことだとわかっているけれど、いじめっ子に反抗
することも出来ず、結局は自分もいじめに加担してしまう。それを正当化
しようといじめられっ子に身を守る方法を教えてあげようとする。
基本的には良い子なんだけど、ちょっとずるい所もありますね。まぁ、
この年齢の子なら仕方がないとは思うけど。でも、最後、いじめられっ子が
小鳥のヒナに関して、主人公に教え諭したことで、二人の関係が少し
変わって来るのかなーと思えました。二人が良い友達になれるといいな。