ミステリ読書録

ミステリ・エンタメ中心の読書録です。

貴志祐介「兎は薄氷に駆ける」(朝日新聞出版)

貴志さん最新作。思った以上に読むのに時間がかかってしまった^^;一週間以上

かかったんじゃないかな?途中に旅行なんかも挟んでしまっていたせいもあるの

だけれど。470ページ超えの長編ですが、貴志さんなので、リーダビリティ

あるから、もう少し早く読み追われるかな、と思ったんですけどね。なかなか読む

時間が取れない中の長編は結構キツい。

冤罪事件を扱った、正統派な社会派ミステリー。貴志さんがこういう作品を書かれる

とは、ちょっと意外だったかも。どちらかというと、貫井(徳郎)さんや薬丸(岳)

さんが書きそうな題材だと思いました。

叔父を殺した罪で警察に捕まった日高英之は、無実を訴えたにも関わらず、警察の

連日に亘る厳しい取り調べに疲弊し、遂に自白してしまう。しかし、これは英之

が仕掛けた、15年前に起きた、実の父親の冤罪事件に対する壮大な復讐劇の

始まりだった――。

二つの冤罪事件を巡って、容疑者、警察、検察、容疑者の弁護士とその協力者で、

元リストラ請負人のサラリーマン、容疑者の恋人、と様々な人物の思惑が錯綜

して物語は混迷を極めて行きます。ぐいぐい引っ張られて、先へ先へとページが

進んで行きました。

ただ、引っ張った割に、後半は失速しちゃったかなぁという印象。英之の事件も、

彼の父親の事件も、真相は予想の範囲内でしかなかったですね。そこにもう一つ

何かしらの仕掛けがあったら良かったのですが・・・意外性って意味では正直

物足りなさを感じました。

それに、ちょいちょいツッコミところがあって、あの伏線って何だったんだ?

みたいなところが多かった。伏線だと思っていたのが何の伏線でもなかったという

か・・・ちょっと、肩透かしだったなぁ。

そもそも、英之の弁護士に協力する垂水の人物設定にも?なところが多かった。

一介のサラリーマンが、なんであんなに弁護士に信頼されているのか、謎でしか

なかった。会社員時代にリストラ請負人だったからって、そんなに調査に長ける

ものなのかな?冒頭に出て来た家庭内での姿と、英之の事件に関わってからの姿

が違い過ぎて、違和感もありましたし。

あと、英之の彼女の千春のキャラも、どうにも好感持てなかったなぁ。すぐイライラ

するし。彼女がなぜ、あれほどの熱意を持って英之を支えようとするのか、その

辺りの説得力もあまり感じられなかったしね。

 

以下、個人的に引っかかった点をあげておきます(備忘録のため)。

ネタバレしてるので、未読の方はご注意ください。

 

 

 

英之がコンビニの女店員に対してストーカー行為をしていたっていうエピソード

って、結局、叔父の事件で捕まる為の仕掛けの一つだったってことなのかな。

それとも、コンビニの女性店員二人に亘ってストーカー(まがいの行動)してた

ってことは、惚れっぽいのは、本来の性質の一つってことなんでしょうか。

でも、それなら、それについて法廷で触れていた時、千春が笑っていたのは

何故だったのか。

何かいろいろ、すっきりしないまま終わっちゃった感じだったんですよねぇ。

だいたい、あんな計画に乗っかる弁護士がいるってのもなんだかなーと思って

しまった。

冤罪事件は絶対起きてほしくないし、警察や検察のひどい取り調べのシーンには

憤りしか覚えなかったけれど。

英之の計画には、とても共感は覚えられなかったな。父親の事件は父親の事件で、

納得出来ない部分が多かったんですよね。読み取り不足もあるかもですが。

 

読み応えはありましたし、社会派ミステリーとしては十分面白い作品になって

いるとは思いますが、個人的には、ちょっと全体的に腑に落ちない点が多かった

かな、と思いました。